第2回 パリの救世主に「スマイル」なし

パリのパン屋

編集部
当サイト編集部員でもある近藤淳司氏がパリへの想いを綴った書籍「ボクはパリ症候群、だった」の一部を本人了解のもと、シリーズでご紹介します。パリに憧れを持つ方、パリ旅行、滞在、留学を考えている方に、いくつもの「パリの裏の真実」と、その予防策を紹介していきます。


パリの救世主に「スマイル」なし

パリに行ってまず何にびっくりするかというと、そのパンの美味しさです。バゲットにバターとハムを挟むだけで、こんなに美味いのか、と感嘆せずにはいられません。そんな「ジャンボン・ド・パリ」を初めて食べたときの衝撃は今でも忘れられません。表面はかりっと香ばしく、良質な小麦そのものの味わいが口に広がり、鼻腔びくうをくすぐります。軽い甘みと塩味で引き締まったバターとハムのハーモニーが絶妙です。日本で食べているフランスパンとはまさに雲泥うんでいの差です。

一方、パリの有名なパン屋で焼かれたパンは、バターやジャムなど何も付けなくても、香ばしく、そのままぱくぱくと平らげちゃいます。どうしてフランスと日本でこうも違うのか。聞いた話だと、気候や湿度が違うので、フランスの小麦、水、酵母を使っても、別の味になってしまうとのことです。

またフランスではスーパーで売っている安価なバターも、ものすごく美味しいです。日本の高級バターがフランスの一般的なバターだ、と言っても過言ではありません。本当に美味しいので、パリに行ったらパン屋でバゲットを半分買って(ドゥミ・バゲットと言います)、スーパーで買ったバターを付けて召し上がってみてください。本当に美味しいんだから!

しかし。しかしです。どんなに美味しくとも、いくら何でもいつもいつもバゲットとか、バゲットのサンドウィッチ(ボクらが思い描く、食パンのサンドウィッチではありません)だとか、クロワッサンだとか、パン・オ・ショコラばかり食べるわけにはいきません。飽きます。三食パンを食べてました! のような猛者であれば何の問題もないでしょうが、ボクは米食なのです。運命を呪います。

そしてふとある日、リーズナブルな外食の選択肢が驚くほど少ないことに気づきます。日本にはコンビニがあって好きなものが選んで食べられますが、留学当時のパリにはコンビニがほぼありませんでした。あるのはパン屋、ケバブ屋、クレープ屋。この三つをローテーションで訪れなくてはならない不条理な拷問は、真綿で首を絞められるという表現がぴったりです。

いまではコンビニのようなものもパリにはあるのですが、当時どうしてフランスにはコンビニがないのか、フランス人の友人に聞いてみたことがありました。

「ねえ、どうしてフランスにはコンビニがないの?」
「どうして? 必要ないから」

このように、パリジャンとの会話はときどき議論にさえならないことが多いのです。でも現在では急激に店舗数を増やしているそうです。やっぱりあった方が便利じゃないか。

いずれにせよ、外で気軽に何かを食べるという環境は整っていませんでした。カフェやビストロの食事は軽く10ユーロはするし、一介の留学生にとって、決して安くはなかったのです。

そこで天の救世主が現れます。メシヤ(飯屋)です! なんちゃって。それは某世界的ハンバーガーチェーン店。なんと1ユーロそこそこ(当時のレートで160円程度)でハンバーガーが食べられるのです! 安い!

で、お店に赴くのですが、たいてい行列が出来ています。並んでいるのはフランス人です。「そうか、パリでもハンバーガーはすごい人気なんだな」と思ったあなた、惜しい! ちょっと違います。どうして行列が出来ているのか? それは、人気があるからだけではありません。店員が「牛歩戦術」で仕事をしているからです。つまり、ボクらは辛抱強く待たされるわけです。シフトの変わり目で入ってきた女の子がにこやかに「ボンジュール!」を店員と交わし、ビズ(頬のキス)を交わし、楽しげに世間話を交わします。その様子を窺っていると「おい仕事しろよ」と思わずこちらからスマイルがこぼれてしまいます(ちなみにパリのお店ではスマイルは売っていませんでした)。

行列に並んでいる間、時間を持て余すのでふと入り口を見遣ると、ガラスのドアはひび割れ、店の隅の方では目つきの悪い素行不良な感じのお兄さんお姉さん達がたむろしています。彼らのほとんどは格好が同じで、判別しやすいです。彼ら・彼女らの間ではアディダスが半永久的に流行っており、上下をそのジャージで決めるのがクールなのです。ボクもパリにいた頃はジョギングをしていて、夏は気軽にアディダスなんかを着ていたのですが、もしかしたら彼らの仲間になれたかも知れませんね。一緒にフレンチヒップホップを聞いて、時の大統領に悪態をついたりしてね。

一方、行列のパリジャン・パリジェンヌ達に目を遣ると、彼らは黙って下を向いて何も見ていません。善良な彼ら・彼女らも、パリの暗部は見て見ぬふりをすることを子供の頃から学んでいるのでしょう。

不条理に出くわしても見て見ぬふりをする、そしてやり過ごす。実はこれがパリ症候群への一番の特効薬なのですよ!

ボクには無理でしたけどね、フフフ。

今回のワクチン:不条理に出くわしても見て見ぬふりをしてクールにやり過ごす。

次回は「言葉は通じるのに話が通じない」です。はたしてどんな展開が待っているのか、お楽しみに。


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