編集部
当サイト編集部員でもある近藤淳司氏がパリへの想いを綴った書籍「ボクはパリ症候群、だった」の一部を本人了解のもと、シリーズでご紹介します。
パリに憧れを持つ方、パリ旅行、滞在、留学を考えている方に、パリで過ごすことの様々な魅力?を赤裸々にお届けします。
パリ症候群
パリに移り住んだ日本人が、新しい生活環境にうまく適応できず、抑うつや自律神経失調など心身にさまざまな支障をきたす状態。イメージと現実のギャップ、言語や経済上の問題、人間関係などから生じるストレスが原因とされる。『大辞林』第3版
はじめに
いまから数年遡る、200X年のこと。夏も終わろうとしている9月。
ボクはある夢を抱きつつ、憧れの異国の地を踏みました。フランスはパリ、シャルル・ド・ゴール空港。相変わらず辺りには、バターの薫りが漂っていました。
空港の空気というのは面白くて、その場所の象徴的な匂いがします。例えば日本の成田空港なら、醤油の匂い。行ったことはありませんが、中部国際空港だったら赤味噌の匂いがするかも知れません。関空ならソースとか?
パリはバターの匂いがするのです。オシャレですね! 我々の期待を裏切りません。
留学予定のボクがシャルル・ド・ゴール空港に降り立ったということは、そう、遂に憧れのパリジャンとなるのです! パリといえば……世界最先端の流行をショーウィンドウに映し出す数々のブティック、ギャルソンがにこやかに迎え入れてくれる数百ものシックでクールなカフェ、そして目もくらむような、国宝の絵画や彫刻を収めたルーヴルやオルセーといった美術館の数々。その豪華絢爛で華やかなイマージュを目に浮かべるだけでわくわくしてきます。碧い空の下のセーヌ河、アコーディオンによって奏でられる美しいシャンソンの調べ、そして馨しいワインとチーズ……。
しかし、物には何事にも表と裏があります。もし表のパリが以上のようにバラ色に彩られているとすれば、裏のパリは、深海魚が住まう海底のように暗黒なのです。夢と希望を抱いていた『夢見るシャンソン人形』的なボクが、後々、「あんなこと」になるなんて、その時は思いもよりませんでした。そう、ボクは病に罹ったのです。キルケゴールのいう「死に至る病」、すなわち絶望の病に。
パリ症候群という言葉をご存じでしょうか。パリに憧れ、意気揚々とフランスを訪れたものの、言葉の壁や文化の違いによって失意に打ちのめされたうえ、行政や企業から理不尽な目に遭い、何らかの精神異常を来すものの、それでもパリから離れられない……そんな人が後を絶たないため、パリ在住のお医者さんが名付けました。それはまるで何かのアディクション(中毒)のように我々の心の奥に食い込んできます。この症候群、多くは女性に発症するらしいのですが、そんなのは関係ありません。だって、男のボクが実際に罹っていたのですから。
ここで一応お断りをさせて頂きますと、精神科医の先生から「キミはパリ症候群だ、今すぐ日本に帰国しなさい!」と診断され、またそのようにカルテに書かれたわけではありません。あくまでも自己診断の結果、総合的に判断し、「うん、これは典型的なパリ症候群に違いない」と結論を出すに至ったのです。ですので、このエッセイは、心理学的、あるいは精神医学的見地から何かを語ろう、というものでは毛頭ございません。自称元パリ症候群患者の心の叫び、とでも呼べば良いでしょうか。まあ肩肘張らず、こんな人もいるんだな、くらいの軽い気持ちでご笑覧ください。
これは、自称元パリ症候群罹患者による、予防接種的ルポルタージュエッセイです。
フランスから帰国して数年。完治しつつあるいまでもを思い出すと、古傷がうずくんです、正直なところ。でもボクは根が優しいので、憧れのパリ移住なんかを目指している皆さんが現地に着いて発狂……おっと、パリ症候群を発症しないように、パリ・フランス関係者の誰もが語りたがらない(あるいは陰でこっそり語っている)、いくつもの「パリの裏の真実」を顕わにし、その予防策をお伝えしたいと思います。
第一回は「ドアの向こうにある不条理」をお届けします。お楽しみに。
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