ワインを楽しんでみたいけど、ちょっと敷居が高い……そう感じている方、とても多いのではないでしょうか。私もワインを学ぶ前の20代前半の頃はそうでした。
でも大丈夫。知識があろうとなかろうと、私の周りのワイン女子のみなさんは、様々な方法でワインを日々エンジョイしているようです。
彼女たちがどんなキッカケでワインを好きになり、今はどんな楽しみ方をしていて、どんな悩みや疑問を持っているのか。インタビューを通じて皆さんのリアルなワインライフを探ってみました。
一人目のゲストはフードデザイナーの須賀いづみさんです。
聞き手 瀬川あずさ 近藤淳司(編集部)
『私ってワインのセンスないんじゃないかな?』ってずっと思っていました」
20代の頃から「とりあえずワイン」
須賀いづみさん(以下、須賀):こんにちは。須賀いづみです。ワイン初心者です。フードデザイナーという肩書で、企業から依頼されたレシピ製作や撮影のコーディネートなどをしています。たまにレシピコラムを書いたりもしています。
【須賀いづみさんのInstagramのアカウントはこちら】
須賀いづみ(フードデザイナー/フードスタイリスト)
化粧品会社に勤めたのち、健康と美容の根本は“食”だと思いフードデザイナーに転身。料理家のアシスタントに付き、苦手だった料理を一から徹底的に学び独立。広告や雑誌のフードスタイリング、レシピ制作、食と旅のコラム執筆、SNSアカウントの運用などを行なう。食を通してヘルシー&ウェルネスなライフスタイルを提案。
瀬川あずさ(以下、瀬川):いづみさん、よろしくお願いいたします。いづみさんは、私がとてもお世話になっていた取引先の会社で働かれていたことがあって、その時に出会ったんですよね。
須賀:そうです、そうです。もう7、8年くらい前でしょうか。ちょうど料理研究家さんのアシスタントをしていた時があって、その頃にお手伝いしていた会社です。
瀬川:いづみさんには、お料理系の案件などがあると、今もよくお仕事のご相談をさせてもらっていて……。いつも色々お世話になっています。いづみさんのインスタグラムはヘルシー且つ美味しそうなお料理で溢れていて、しょっちゅう眺めているのですが、料理だけでなく、ワインも好きですよね?
須賀:もちろんです。ただ、ワインは個人的に好きで良く飲むのですが、なんだか漠然としたイメージで。マリアージュに関しても、美味しいと思っても言葉で説明できないのがちょっと悩みです。ワインの資格をとろうかなとも検討しているのですが……。
瀬川:資格、いいですね! 是非ぜひ。ワインはいつ頃から飲んでいますか?
須賀:飲み始めたのは20代前半ぐらいからですね。友達が呑兵衛ばっかりだったので、外食の時はワインをオーダーする習慣がもともとあって。レストランではビールでも日本酒でもなくワインを飲むのが定着していましたね。
瀬川:えー、それは素敵。若いうちって、ビールやハイボールばっかり飲んで、ワインを飲む機会が殆どないイメージなのですが、昔からワインを楽しまれていたなんて! なんだか、嬉しいです。
編集部 近藤淳司(以下、近藤):ワインを飲むようになったきっかけは、より具体的にはどんなものですか?
須賀:昔の仕事関係の方にワイン好きが多くて、皆さんと食事に行ったときに、勧めていただいたのがきっかけです。今思えば、何も分らないのに、いいものを色々飲ませていただいていましたね(笑)。
瀬川:その頃に感動したワインってありますか?
須賀:それが、特に無いんです。いま味わったら心に響くものがたくさんあったのだろうと思うのですが、なんとなく飲んでしまったのが本当にもったいなかったです。
瀬川:いや、若いうちはそんなものですよね。私も昔に飲んだワイン、もっとじっくり味わって飲めばよかったなって思うことは沢山あります。
須賀流! ワインの選び方
瀬川:家でも結構ワインは飲みますか?
須賀:さすがに毎日ではないのですが、料理しながらよくキッチンで飲んでいますよ。近所の成城石井さんとか、エノテカさんに買いに行って、お店の人にすすめられた2,000~3,000円位のワインを買うことが多いかな。それで1日2杯とか……。
瀬川:それってキッチンドランカー的な⁈ でも、1日2杯なら健康的な感じで良いですね。そして近所にワインの相談ができるお店があるのって心強い。
須賀:そうなんです。自分なりに「こういう感じ」って伝えると、一生懸命それに応えようとしてくれるので、すごく親切だなぁって思って。品揃えも魅力的ですし。
瀬川:セレクションや陳列が自分好みだと、それだけで嬉しいしワクワクしますよね。
須賀:そうなんです! でも小さいこぢんまりしたワイン専門店は、正直ちょっと入りづらいです。いかにもこだわりが強そうで……。店員さんが側に来て説明してくれると、ありがたいけれど必ず買わなくちゃいけないプレッシャーを感じてしまうんです。
瀬川:なるほど。確かに、ある程度自由にワインを眺めていられる環境のほうが、気が楽ですよね。ワインショップで緊張するのって、若い頃にハイブランドのブティックに入って、ドキドキした感じと似ているかも。
近藤:コンビニエンスストアだとかオンラインショップだとかで、ワインを購入することはありますか?
須賀:コンビニでは買わないですね、なんとなく。そのまま商品がダラッと並んでいてちょっと雑多な感じに見えて「美味しいの、本当にあるのかな?」と思ってしまうんです。
瀬川:確かに、陳列の仕方って大切ですよね。そこってお店のセンスを問われる部分だと思っていて。キレイに並べて「魅せる」ことができているお店は、やっぱりいいワインを揃えていることが多いな、って個人的に思います。でも最近は、コンビニでも店舗によってはワインの陳列に力を入れているところも増えてきて、充実した品揃えに驚かされることもあります。
須賀:そう、「商品への愛が感じられるかどうか」ですよね! あと、ネットは買いたいワインの銘柄が決まっているときに利用するけれど、そうじゃない時はあまり使わないかな。
瀬川:実際に好みのワインに出会ってまた飲みたくなった時に、はじめてネット検索して購入するということですよね?
須賀:そうです。でも、同じワインを繰り返し買うというよりも、色々なワインを試してみるのが好きですね。美味しかったなって印象に残ったものは、写真を撮っておいて、たまに買ってみたりはするけれど、リピートするよりは新たなワインに挑戦する頻度のほうが断然多いです。
瀬川:新たなワインとの出会いの可能性が広がって、素敵だと思います。
「ワインの表現」の壁をどう乗り越える?
瀬川:先ほど、飲みたいワインを自分なりにお店の人に伝えているって言ってたけれど、ワインを言葉で表現するのって、難しいと感じますか?
須賀:それが一番難しいです。味わってみて「あ、これが好き」とか「ちょっとイメージと違うな」とかいろいろ感じることはあるのだけど、それをなかなか上手く人に伝えられなくて。
ワインが好きな方と食事に行くと、皆さんしっかり味わった感想を話されるので、「こういう表現をするんだ」って勉強になります。
瀬川:ワイン初心者はみんなそうですよね。「ワインが好きだけど表現できない」とか、「飲んだ時にひとこと言いたいけど、気の利いた言葉が浮かばない」とか、「間違っていたらイヤだし」とか。そういう声は本当によく聞きます。
須賀:まさに、そうなんですよ……。
近藤:でも、フードデザイナーというお仕事上、お料理に関しては普通に言葉が出てくるんですよね?
須賀:はい。食事だったら表現できます。自分が作った料理や、自分が何度も食べているものに関しては、味わいを具体的に伝えることができるんですけど……。
やっぱりワインは自分の専門分野ではないから、「間違っていたら恥ずかしい」という気持ちが勝っちゃうんですよね。たぶん、それが大きいと思います。
近藤:いづみさんの場合、本気を出せば自分なりに表現できる気がします。そこを思い切って挑戦する、ということはないんですか?
須賀:いや、それはちゃんと勉強してからにしたいと思って。あと、ワインの専門家がよく「バニラの香り」とか「ベリーの香り」とか言っているけれど、内心では「本当に感じて言っているのかな?」って疑問に思っていて(笑)
以前、ワインスクールの体験講座に行ってみたことがあるんですけど、受講生みんなが本当にその香りを感じて表現しているのか、それとも「この品種はこんな香り」っていうマニュアルに沿って言っているのかが分からなくって。
なんだかずっとそこが疑問で、お料理とのマリアージュ(ワインと食事の取り合わせ)に関しても「これとこれは合う!」というマニュアルがあるから、みんなが合うと言っているのではないかとちょっと疑っているんです。
近藤:おそらく、食事に対して強いプロ意識があるからそう思うんでしょうね。例えば初心者の方がワインスクールを受講したら、とりあえず講師の見よう見まねでワインを表現してみたりすると思うんです。でもいづみさんの場合はプロの意識が高いから、本当に感じていないことを言葉に出すことに抵抗があるのでしょうね。
須賀:そうかもしれません。
近藤:でも皆さん初心者ですし、人によって全く違う捉え方をするのは当たり前ですから、そのあたりはある程度許されると思うのですが。瀬川さん、いかがですか?
瀬川:もちろん、人それぞれ色々な表現をされます。でもそれって本人が感じ取ったことなので、お手本と違っていたとしても、それが間違えだとは言い切れないと思うんです。
もちろんワインスクールでは万人の共感が得られるスタンダードな表現方法をお伝えしていますが、みんながみんな同じコメントだったらつまらないですよね。たとえプロのソムリエさんでも、一つのワインに何人もがコメントした場合、やっぱりそれぞれの個性が出てきますし。
須賀:そうなんですね。それを聞くと少し安心します。
瀬川:私も初めてワインスクールに通ったときは、正直、自分の鼻がおかしいのじゃないかと思うくらい、香りが分からなかったですね。
例えば「火打石」とか言われても火打石の香りを嗅いだこともないし、とにかく意味不明でした。「スパイス」とか多少分かるかな? というものはあったけれど、殆どの香りがピンとこなくて。でも何度もテイスティングをしていくうちに、本当にその香りをワインに感じて、表現できるようになりました。
須賀:それって、どうやって香りがとれるようになってくるんですか?
瀬川:最初は色々な香りがごっちゃになったような、モヤモヤした香りなんですよ。でも、ひとつスパイスの香りが分かって、もうひとつフルーツの香りが分かって……という風に自分の中で整理していくと、少しずつ香りの集合体が紐解けてきて。
それを積み重ねていくと、今までぼんやり認識していた香りが経験として積み重なって、言葉と結びついていくんですよね。
須賀:えー、それはとても興味深いです。自信もないし、皆さんが言っている香りが全く分からないから、「私ってワインのセンスないんじゃないかな?」ってずっと思っていました。
瀬川:そんなこと絶対ないです。初心者の方がソムリエの表現をすんなり理解できるとは私も全く思っていませんし。だから、楽しむ側の私たちは、もっと自由に香りも味わいも表現していいんじゃないかなと思っています。
近藤:今の話を聞いていると、やはりワインに関しては間違えを恐れずに自分が感じたことを表現してみていいんだな、と思います。日本人は自信がないことについて思ったことを表現することに慣れていないのかもしれないですが、その壁を打ち破ることが大切になってくるのかもしれませんね。
瀬川:本当にそうです。実際、勉強をして自分なりの表現方法が身についてくると、逆にその凝り固まった表現に執着してしまったりすることがあります。そんな時にワインを勉強したての受講生の自由な表現を聞くと、すごく新鮮で勉強になるんですよね。だから感じたことは、恥ずかしがらずにどんどん発言してほしい。
須賀:そう言ってもらえると、ちょっとホッとするし、更に興味も出てきました。
瀬川:良かったです。ワイン初心者が「ワインって難しそう」と感じてしまう、その敷居の高さを無くしていきたいので!
(後編につづく)
フードデザイナー、フードスタイリストとしてご活躍! 須賀いづみさんのInstagramのアカウントはこちら
今回のゲストトークで話題になった「マリアージュ」と「ワインの表現」については、別の連載の中でもテーマとして取り上げています。ぜひ参考にしてください。
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