戦略的に情報を発信すること
戦略的に声がかかるのを待ち、それが上手く行った例はどんなものでしょうか。
近藤が真っ先に思い起こすのは、中国は後漢時代の劉備玄徳の宰相、諸葛亮孔明です。確かな史実かどうかはさておき、孔明は田舎に引きこもり、高度な兵法を学びながら、自分の才能を存分に活かせる主君が現れるのを待っていたと言います。孔明が劉備より三顧の礼をもって軍師へと迎え入れられたことは『三国志演義』などであまねく知られていますが、それも「知る人ぞ知る天才」として孔明が噂されていたことを考えれば、彼の用意周到な戦略だったと考えることも出来ます。つまり、ただ待つだけではなく、自分の情報を小出しにして、自らの才能を売り出していた……それは穿ったものの見方でしょうか。
これは我が国の平安時代の天才、真言宗開祖の空海にも言えます。空海は唐への留学僧であり、その類い希なる才能によって当時最新の仏教(すなわち密教)の極意を恵果和尚より伝授されました。空海は天才であるがゆえに唐に渡る前より着々と準備を進めており、密教習得に欠かせない古代インド語、すなわちサンスクリットもおおよそ身につけていたようで、普通なら何年もかかる修行をあっという間に終えてしまったのでした。
そこで空海は一刻も早く日本に伝えるべく帰国したのですが、予め決められていた滞在年数を大幅に下回っていため、罪に問われる恐れがありました。遣唐使として留学させるには莫大な費用のかかる船などを調達しなければなりませんし、難破して我が国の天才たちが何人も海の藻屑と消え去るなど、常に大被害の恐れがある中で送り出していました。そこで修行を放り出して日本に戻ってきたと見なされかねなかった空海はすぐには京に赴かず、己がいかに優れた成果を上げてきたか、戦略的に情報を小出しにしながら上京の時機を探っていたと言います。
孔明や空海のように、もし皆さまが有能な誰かと出会いたいと強く願っているならば、戦略なしに自分をむやみやたらと表現することは差し控えましょう。例えばFacebookやTwitterなどでもよく見受けられるのですが、ランチやディナーで自分が何を食べたかについて、(友人間でのやり取りでもあるのでしょうが)その事実だけを延々とSNSやブログに書いたところで、誰も「誰かに見つけて欲しい」あなたを見つけられないでしょう。
では自分が有能な誰かと繋がりたいとき、どうすれば良いか? 小野によればそれには「探される要素」を、名刺でもFacebookでもInstagramでも、なんでも表現に盛り込めば良いのです。つまり、繋がりたい誰かが、一体どういうキーワードであなたを探すのか? そのことに極めて意識してそれを散りばめろ、というわけです。
例えばTwitterで「本当に気の合う人」を探すとしましょう。すると、我々は驚くほどの困難にぶつかるでしょう。なぜなら多くの人は、かつての近藤がブログでやっていたように、単に自分が思っていることをツイートしているだけだからです。例えばテレビや映画、読んだ本やマンガなど趣味の感想。政治に対する不満や支持、タレントへの賞賛や誹謗中傷。皆さんの感情を刺激する、死亡事故やテロなどやるせないニュースへのコメント、あるいは意見表明。はたまた美味しいランチへの賞賛や不味かったディナーへの不満。日常で起きたイヤなことや嬉しかったことの、社会への匿名での報告。つまりほとんどの人が、誰か自分を知ってもらいたい人に見つけてもらおうとして、行動しているわけではないのです。
ここで仮に、あなたは誰かと繋がりたいと思ってSNS内を検索します。芸術的な映画が好きなら、例えば「小津安二郎」「アラン・レネ」「フランシス・コッポラ」といった特定のキーワードや内容で検索します。そして検索結果にツイートやFacebook、Instagramなどの投稿で、共感できる内容がそこに書かれているとします。その内容が自分の嗜好や思想に合致しているからこそ「この人と繋がりたい」と思うのなら、当然、我々を探している誰かもきっとその通りでしょう。「探される要素」とは自己思想の自然的発露ではなく、ロジカルで戦略的、そして能動的な表現の結果なのです。
ポイント②
ただ漫然と表現して待つだけではダメ、戦略的情報発信を行え。
「第5回 自己表現、あるいは戦略的セルフプロデュース」につづく
〜ビジネスで戦える優れた集団を作るためにすべき13のこと〜
小野 正博/著 近藤 淳司/共著
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