興味はあるけど、BARに行ったことがない方に、BAR「HONESTY」のマスター田頭大輔氏が、BARの様々な話やお酒のお話をお届けします。
始まりのカクテル
バーテンダーとしてのきっかけ、のお話は最初の対談記事で少し挙がりました。
その前に、カクテルに興味を持ったのはいつだったかを思い返していました。
店主が高校生くらいの頃だったかと思います。
母に付き添って買い物に行くと、缶ビールやチューハイの棚に並んで、缶のカクテルが登場しました。
その中の一つ、バイオレットフィズと書かれたものを、普段お酒を飲まない母が珍しく手に取っていました。
昔の、ちょっとした失敗談を話しながら、懐かしそうに。
この風景がカクテルを作りたいと思うきっかけの最初のピースかも知れません。
なにせ25年以上前のことですが、初めてBARでいただいたカクテルはバイオレットフィズのような気がします。
BARに行って実際に飲んでみたいと思ったでしょうし、真っ先に飲むのが自然でしょう。
頻繁に注文していましたし、BARでいただくと本当に美味しかった記憶があります。
それを母にも飲ませたいと、一度だけ一緒にBARへ行ったこともありましたが、どうも酒場は苦手なようでその一度きりとなってしまいました。
ならばと、自分が作ることにしました。
今夜の一杯 バイオレットフィズ
フィズタイプのレシピ自体はいたってシンプルです。
スミレのリキュールに、レモンジュースとシュガーシロップを加えてシェイク、それを氷の入ったグラスに注いで炭酸で割ります。
ただし、シンプルなカクテルこそベースのお酒次第でだいぶ仕上がりが変わってしまいます。
数年前に気に入っていたリキュールが終売になってしまってからは少し悩んでいましたが、
最近教えてもらったリキュールがしっくり来ているのでやっとご紹介できるようになりました。
バーツール(※)は、よく一緒に飲んでいた友人から、セットになったのをプレゼントしてもらったものがありました。でも酒屋の方はよく分からない。
当時はまだインターネットでの情報や通販などもなく、ただそのリキュールが手に入ればと思い、品揃えの良い上野のデパートを教えてもらって探しに行きました。
実際そこには無数のボトルが並んでいて、ヘルメスのものを見つけて持ち帰りました。
遂にカクテルを作る準備ができた男の子は、もう作りたくて作りたくてその日のうちにチャレンジしたと思います。
当然、想像したようにはうまくいきませんでしたが、押し付けるようにして母には一口飲んでもらいました。
今思えばとても恥ずかしく、申し訳なさすら湧いてくる拙さでした。
とにかくその時、初めてカクテルを作ったのです。
そもそもはお酒を飲まない母ですので、きっともう自分が作ったものを口にしてもらうことはないでしょう。
でも、美味しいと思ってもらいたい、喜んで欲しい、だからもっと美味しく作りたい、という気持ちは、あの時うまくいかなかったからこそかも知れません。
今ならできるのに、という思いは、可能な限り減らしたいものです。
いつもこんなことを考えているもので、ご注文を受けた時に熱や思い入れを感じると、その一杯はいつもよりも鮮やかな仕上がりになることがあります。
我がままを、仰ってみてください。
昔話を聞いてくださってありがとうございました。
そのうち、みなさんのカクテルの思い出も教えてください。
それに負けないくらい美味しく作れると良いのですが。

BAR HONESTY 店舗情報
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東京都足立区千住寿町2-17 松岡ビル4F
http://www.bar-honesty.com/
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■営業時間:17:00~翌2:00
定休日 水曜日
■12席 ※1グループ4名様まで 貸切応相談
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