編集部
当サイト編集部員でもある近藤淳司氏がパリへの想いを綴った書籍「ボクはパリ症候群、だった」の一部を本人了解のもと、シリーズでご紹介します。パリに憧れを持つ方、パリ旅行、滞在、留学を考えている方に、いくつもの「パリの裏の真実」と、その予防策を紹介していきます。
言葉は通じるのに話が通じない
パリはヨーロッパのハブの機能も持っています。ハブ(ハブ空港)とは世界中から飛行機が集まってきて、そこから世界に向けて出発する場所ですね。たとえば東京からスペインのマドリードに行くとしたら、羽田か成田からパリ・シャルル・ド・ゴール、そこからマドリード、というふうに、パリを起点として乗り継ぐことがあります。その中心となる機能を果たしているのですね。
ボクがパリに愛憎入り交じる感情を抱えつつもなかなか離れらなかった理由もここにあります。つまり、パリに住んでいれば「あ、明日はロンドンに買い物に行こうかな」とか「マドリードで美味しい生ハムでも食べたいな」と思った翌日には、旅行の準備が整っているのです。旅行好きにとって「パリ定住」はまさに垂涎の的ではないでしょうか。
ボクがよく利用していたのはイギリスの「イージージェット」(https://www.easyjet.com/)というLCC(格安航空会社)です。出発時間が早朝で、どうやってもシャルル・ド・ゴール空港の近くにホテルを取らないとパリ市内からは間に合わないなあ……なんて思っていたら、なんとパリ市内なら自宅まで迎えに来てくれるシャトルバス(これも安い)があって、空港まで送迎してくれます(当時は、ですが)。
他にもフランス東西南北に広がる国際鉄道網がパリ始発であるため、ボクも本当にお気軽な感じで、フランス国内はもちろん欧州各国、色々と旅行していました。
それで、まったくトラブルがないかといえば、もちろんそんなことはありません。そうじゃなきゃフランスじゃないじゃないですか! トラブルのないフランスはフランス的ではない、とことわざにもあります(嘘)。
ある日のこと、SNCF(フランス国鉄)のサイトからTGV(フランスの高速鉄道)のチケットを購入していたのですが、「取引が失敗しました」との表示が出たんです。「なんだ、失敗か。フランスでは良くある」と気を取り直してもう一度手続きをしたのですが、なんと、さっきのチケット購入は受理されていたのです。つまり二重取引です。料金2倍です。
いくら何でもこれはひどい、ということでキャンセルをしようとしたのですが、その取引サイト上ではどうやっても出来ないということが分かりました。そのため苦情の電話をかけたのですが、サービスセンターは1時間以上繋がらない。仕方なくボクは電話を諦め、リヨン駅(パリ南東に位置する駅)までわざわざ出向き、チケット売り場に「返金してくれ」とプリントアウトしたチケットを携えて主張したのですが、駅員は「(ネット購入での苦情受け付けは)ここじゃ出来ない」の一点張り。けんもほろろに冷たくあしらわれました。いまでもあの小憎たらしい中年女性の無表情が目に浮かびます。
「どこに行けば出来るんですか?」
「知らない」
俗に言う「言葉は通じるのに話が通じない」状態です(フランスでは良くある)。
すったもんだが数時間続き、やっとの事で別のページ上にあるクレーム受付をやっているフォームがあることがわかり、早速事情説明のメッセージを送信しました。ところが返信メールでは「いかなる事由があっても返金出来ません」。もちろんこっちに非はありません。
「いやおかしいから、『取引が失敗した』って画面に出たんだって」
「駄目です」
「こっちは絶対に悪くない、画面の指示に従っただけだから」
「無理です」
「ふざけるな」
「無理です」
そんなふうに5回はやりとりしたでしょうか。不屈の精神でクレームを続けたところ、最後には向こうが折れ、返金されました。勝利です! 勝者のいない空しい勝利でしたが。
数時間かけて、一生懸命フランス語で苦情のメールを書いて、怒りで半狂乱になって、心が折れそうになる自分を励まし、やっと勝ち得た結果です。ちなみに繋がらなかったサービスセンターへの電話代が10数ユーロだったのですが、そちらはもちろん戻ってきません。理不尽です。この労苦のために、旅行のうきうき気分も何もかも、全部吹っ飛んでしまいました。
フランスではこちらにどんなに非がなくとも、このように自己主張できない人間は常に不条理の前に涙を流すことになります。恐らく日本人だけでなく、フランス人も含めて、非常に多くの方々が泣き寝入りをしていると思います。そしてその自己主張のためにとてつもない労力と時間が浪費されます。パリで生きるには、6回に一度は必ず発生するロシアンルーレットのようなトラブル(本当に問題が良く起こる)を、ある種のイベントとして涼しい顔でこなす力が必要です。
それが出来なければ、その先に待ち受けているのはパリ症候群、かもですよ!
今回のワクチン:ロシアンルーレットの弾に当たっても、クールに「なんてことないさ」と割り切る。
(編集部)
いかがでしたか。電子書籍「ボクはパリ症候群、だった」の一部を3回に渡ってご紹介しました。この後も、著者近藤氏の喜びと苦悩は続きます。
多くの人を惹きつけて止まないパリの裏の真実とは? 続きをご覧になりたい方は是非、本書をご覧ください。
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