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いつでも、誰でも、どこからでも参加できる趣味へ 〜春の渋谷を歩む| カメラ片手に街中ブラ俳句 第1回

カメラで渋谷を撮影

ふとしたキッカケで思わぬ趣味と出会うことがあります。そしてそれがライフワークになったり。
「何でも屋」を自称し、放送作家などマルチで活躍する本間恵理さん。
彼女が出会った「渋谷を散歩、カメラ、そして俳句」という独自の趣味についてシリーズでご紹介していきます。
キーワードは「いつでも、誰でも、どこからでも参加できる」ということです。


閑静な渋谷との出会い

渋谷の街を、くまなく歩いてみたい。

そう思わせるきっかけをくれたのは、奇しくも2011年の東日本大震災のときだった。

都内で会議を終え、恵比寿にある事務所に戻ると、社員みんながテレビの中継を見つめていた。東北で起きた震災は、遠く離れた東京の交通機関にも影響を与えた。

「よし、今日は歩いて帰ろう!」

一番年長で頼りになるデスクさんの一言で、社員一行の運命が決まった。

こうして、渋谷区恵比寿から、当時の自宅があった杉並区和泉まで、およそ2時間かけて歩くことになった。一行の船頭になってくれたデスクさんは、普段は車で通勤することもあるため、渋谷の道路事情に詳しかった。歩きながら、私に渋谷の街を案内してくれた。すると、今まで知らなかった世界が見えてきた。

渋谷の風景

代官山の裏路地は緑にあふれていて、先ほどのニュースのあわただしい中継映像とは裏腹に、優雅にカフェを楽しんだり、美容院で髪を切ったりする人々の姿があった。

「昼から優雅だね」「優雅ですね…」

そんな皮肉をこぼしながら、恵比寿~代官山を抜け、山手通りを目指した。

道玄坂上まで来た時には、歩き出してから30分が経過。

季節は春先とはいえ、背中には汗が吹き出し、体もポカポカ温まってきた。

ここから、都内有数の高級住宅地と称される松濤、富ヶ谷のエリアへ入った。

「えっ、ここも渋谷なんですか?」

と、何度も聞いてしまうほど、目を疑った。

広々とした歩道は、“歩くスペース”と“自転車が通るスペース”がどちらも十分に確保され、安全を意識するだけでなく“ゆったり歩く”ための造りになっていた。

渋谷駅の喧噪とは打って変わって、静かな住宅地。整備された街並みの片隅で、静かに解体されていく建物。

「こんなにキレイな場所なのに、まだ変わるんだろうか?」

そんな未来を予想させる場所だった。

駅から駅へ、電車に乗って移動するだけでは見えなかった、新しい渋谷。

この場所に、一目惚れしてしまった。ここをもう一度くまなく歩いてみたい。そう思った。でも、そのエリアの家賃は、どんなに安くても当時の私にはとても手が出せない金額だった。

編集部注)一般に渋谷といえば、ハチ公中心の渋谷駅近辺のイメージですが、渋谷区は南は恵比寿、北は代々木、千駄ヶ谷、西は笹塚、東は広尾まで広く、特に松濤(しょうとう)エリアは閑静な住宅地で有名です。(渋谷区松濤wiki)

晴れて渋谷区民に。次に出会ったものは

それが、数年後に叶う形となったのだ。お金を貯めて、晴れて渋谷区民となり、私が思い描いた通り、渋谷を歩く生活が始まった。
それまでは、電車を乗り継がなければ行けなかった場所が徒歩圏内になった。
仕事も、買い物も、すべて渋谷区で事足りる。

朝、昼、夕、夜、深夜。すべての時間の「渋谷」を見てきた。すると、ある日を境に、通い慣れた道に「価値」を感じるようになった。ついこの前まで蕾だった花が咲きそうになっていた瞬間。たまたま近所まで出かけたタイミングが雨上がりで、露を含んだ植物を見つけた瞬間。そんな、価値ある風景を見たことで、歩くだけでなく「この風景を撮りたい」と思うようになった。それが、「歩く」に次いで「カメラ」を持ち始めたきっかけだ。生まれて初めて買った、ミラーレス一眼を持ってカメラ教室にも通った。

カメラを片手に渋谷を撮る

人生初のミラーレス一眼。購入した決め手は「首から下げた時の軽さ」と「スマホへの画像転送機能の便利さ」だ。

私は「渋谷の風景を撮る」と決めていたので、仕事の帰り道、荷物を持って歩きながら撮影しても疲れないことが大前提だった。

カメラが重くては、せっかくの撮影を楽しめない。そこで、カメラ本体に加え、付け替えのレンズをはめた時の重さも併せて、他社のカメラと色々比べてみた。

結果、このオリンパスペンに落ち着いた。
そして、「スマホへの画像転送機能」。オリンパス製デジタルカメラ内の画像を、スマートフォンアプリ「OI.Share 」を使って iPhone や iPad に転送できるのだ。
※ OM Image Share https://app.olympus-imaging.com/oishare/ja/

カメラで渋谷を撮影

私は、撮った写真をInstagramにアップしたいと考えていたので、カメラ本体の液晶画面越しでなく、スマホ画面越しで見た時にどう写るか?が優先だった。この機能のおかげで、パソコンを介さなくても、撮った後、wi-fiさえ繋がっていればすぐにスマホに転送できる点が便利だ

そして俳句を学ぶ

私は20代のころから演歌歌謡曲の番組に携わっているが、この番組で触れる歌の世界に今後もかかわり続けるだろうな、と決意が固まった時があった。50年先、80代になったベテラン作家の私が、詞の世界にも携わるかもしれない、歌手の方が気持ちよく歌えるように前口上やナレーションを書くようになるかもしれない、そう思ったときに「今から始められる勉強は何か?」と考え、思いついたのが俳句だった。徒歩圏内で通える俳句教室が見つかり、さっそく入会した。

俳句の勉強を始めたことで、「歩く」「カメラ」に加え「俳句」の目線で街を見るようになった。偶然にも、「カメラで撮りたい」と感じた場所は、「俳句にしてみたい」と思う題材とぴったり重なった

渋谷で撮って一句のはじまり

渋谷を歩きながら、カメラを構え、俳句を考える。それがライフワークになりつつあった頃、コロナ感染拡大のニュースが広まった。
自粛生活で人々が三密を避ける中、私と渋谷の関係はますます密になっていった。
朝の散歩も渋谷。気晴らしに出かけるのも渋谷。日用品の買い物も渋谷。
自粛中はダイエットも兼ねて、毎朝、富ヶ谷の広い歩道を走ったり歩いたりしていた。

渋谷を散歩して桜を撮影

マイペースで行く私の横を、ランナーが大腕を振って次々追い越していく。ところが、ふと足を止めた。汗を拭い、腰に手を当てて、うーんとストレッチしながら彼らが見上げていたのは、見事な八重桜だった。私も同じ場所で立ち止まった。

四方に伸びた枝が、まるで両手を上げてバンザイと歓喜しているように見えた。

自粛生活の中でも、春の訪れを喜ばずにはいられない、そんな八重桜だった。

少し出かけるだけのちいさな風景に価値を感じる場所。それが渋谷だ。

“韋駄天も走りを止むる八重桜”

渋谷をくまなく歩く生活に切り替えたことで、仕事にもいい影響があった。
たとえば、「朝一時間歩く」と設定した場合、自宅を6:30に出発し、代官山の蔦屋書店まで一時間かけて歩く。蔦屋書店は7:30から営業しているので、着くころにはちょうど体も温まり、頭も冴えて、集中力が高まっている状態。ベストコンディションで、併設されたスターバックスでコーヒーをすすりつつ、パソコン作業ができるのだ。

どんな天才でも、一日の中で集中力が持続する時間に限度がある、と聞いたことがある。私の場合、何度か実験を重ねるうちに「自分は3時間が限界」だと判明した。そこで、7:30から始める「朝の仕事」には、一番難しい課題を持ってくる。10:30まで3時間きっちり作業して、集中力が切れたら、店を出てまた歩く。気分転換をしながら、次はどのカフェに入ろうか、と考える。午後からの作業には、肩の力を抜いて取り組む課題を持ってくる。

こうして、歩く⇒作業⇒歩く⇒作業 を繰り返す。歩く間は、さっきまで取り組んでいた作業について振り返ることもあれば、街の風景をなんとなく眺めているうちに、新しいアイデアを思いつくこともある。仕事脳を休ませながら歩くことで、回りまわって仕事にいい作用が働くようになった。

私が代官山をテクテク歩いていると、その横をびゅんびゅんと、タクシーが追い越していく。それまで「余裕のある人=タクシーを使う」と思い込んでいたが、本当に心の余裕がある人にこそ、私のように、歩く特権が与えられるのではないかと思った。

心の余裕があればこそ、たとえ雨の日でも「それはそれで、歩く楽しみが増えた」と思えるはずだ。自然の風景を美しく撮ることができるのは、晴れの日よりも雨上がりの瞬間だと私は思う。雨が上がった瞬間、家を出てすぐ代々木公園まで行けることもまた、渋谷に住む者の特権だ。

“雨もまた春の一日テレワーク”

代々木公園風景

パソコンもwi-fiもいらない。写真で切り取った世界に、自分の俳句が見えてくる。歩く、カメラ、俳句。年齢、性別、キャリアに関係なく「いつでも、誰でも、どこからでも参加できる」という点がこの3つの面白さだと思う。


(編集部)
住んでいる場所、働く場所。特に大都市圏にお住いの方は、往復の通勤だけで実はその周りをよく知らなかったりします。本間さんのように俳句までとは行かなくとも、周囲を色々と歩いてみることで、なにか発見があり、日々の楽しみに変わっていくのかもしれませんね。次回は本間さんが散歩、撮影からどのような経緯で俳句に出会うようになったのかをご紹介します。

カメラで渋谷を撮影

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