ウイスキージャーナリスト住吉祐一郎氏による韓国初モルトウイスキー蒸留所「スリーソサエティーズ」のレポートを、実際の取材映像と住吉氏の取材記でお届けします。(編集部)
住吉祐一郎の蒸留所訪問 韓国スリーソサエティーズ編(2)
国際的なウイスキージャーナリスト住吉祐一郎氏による
韓国初となるウイスキー蒸留所『スリーソサエティーズ』のレポートシリーズ(2)です。
この動画では、スリーソサエティーズのスピリチュアルアドバイザーであるアンドリュー・シャンドさんに
- スコットランドでの造り方との違い
- 韓国を象徴するウイスキーについて
- 今後の目標
について、インタビューしています。
住吉祐一郎氏の取材記も併せてご覧ください。
住吉祐一郎の取材記(2)
韓国でのウイスキー造りにおいて僕がまず気になったことは、シャンド氏がスコットランドとは異なる造りをどのように行っているのかということでした。氏はそれを ‘similar but different’ (似てはいるが異なるもの)と言います。
ひとつ例を挙げると、発酵の過程における温度管理です。多くのスコットランドの蒸留所では、夏場の発酵槽の上限温度は33~34℃ですが、ソウルでは37~38℃だそうです。なんだ、たった3~4℃の違いじゃないのと思われるかもしれませんが、ウイスキー造りにおいては「たった」ではありません。このほんの少しの温度の差が、味わいの差となって現れるからです。そしてこの理想の温度帯や時間に行き着くまでには、幾度とない試行錯誤が繰り返されているのです。
とここまで書いておいて言うのもなんですが、今回の上記の温度帯は偶然の産物によるものでした。発酵槽の冷却器が故障して、槽内の温度が上昇したのだそうです。とはいえ、温度の上昇だけを見てここで仕込みを中止していたとしたら、この発見はなかったことでしょう。シャンド氏はその時のことを「ファンキーなフレーバーが出てきたので続けてみた」と言っています。面白いから色々と試してみようということになって、通常発酵の56時間からどんどん伸ばして、120~140時間にまで到達したそうです。
好奇心と忍耐力。そして遊び心。その結果として良いスピリッツが出来上がったわけです。とはいえ、そこには何の確証もありませんでした。日々の飽くなき追求心とハプニングを楽しむ姿勢。偶然を必然へと変えてしまうチカラ技。それが今回の素敵な発酵液の誕生へと繋がったわけです。
シャンド氏の言葉を聞きながら、モノづくりにはやはり、遊び心が大切だなと思いました。言うまでもなく、シャンド氏の遊び心は発酵だけに留まりません。ウイスキー造りのさまざまな工程において、その遊び心が発揮されています。それを許す環境が、スコットランドのウイスキー造りと比較して「似てはいるが異なるもの」という認識に繋がっているのだと思います。
ところで、スリーソサエティーズのウイスキー造りの長期的な目標は、シリーズ化したウイスキーを生産することだそうです。これには2つあります。
ひとつは誰からも愛される、万人受けする飲みやすいウイスキー。そしてもうひとつは、驚くほどスパイシーでありながらフルーティなものです。前者は、例えばグレンフィディックやグレンリベット(注1)といったウイスキー好きなら誰でも知っている世界共通の銘柄に似たものだそうです。後者は…シャンド氏独自の造りによって韓国料理の副菜をウイスキーの香味に見立てた、さまざまな種類のフレーバーを味わうことができるウイスキー。
もちろんそれは飲み手を選ぶものになるとは思いますが、遊び心が存分に発揮された独特のウイスキーになることは間違いないでしょう。
その理想の味を実現するために、多くの試行錯誤を通して日々起こることを楽しみながらウイスキー造りに取り組むシャンド氏。その目はキラキラと輝いていました。彼の言葉と表情には、未知の不安に立ち向かうというよりは、今ある状況を楽しみながら進んで行こうという前向きな気持ちが感じられました。
話を聞いているとつい引き込まれてしまい、僕も早く飲んでみたい、一日も早く韓国を象徴するようなスリーソサエティーズのウイスキーが発売されるといいなと思いました。
住吉祐一郎の蒸留所訪問 韓国スリーソサエティーズ編(3)では、スピリッツのチェック、ウォッシュについて、ミドルカットと試飲、初のシングルモルトウイスキー KI ONE (キウォン)について、紹介していきます。
住吉祐一郎さんインタビューも是非ご覧ください。
住吉祐一郎氏の書籍紹介
ウイスキーに、誘われて
〜英語で旅するバーテンダー(ニュージーランド・カードローナ蒸留所編)〜
住吉 祐一郎/著 近藤淳司/編集
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