ウイスキージャーナリスト住吉祐一郎氏による韓国初モルトウイスキー蒸留所「スリーソサエティーズ」のレポートを、実際の取材映像と住吉氏の取材記でお届けします。(編集部)
住吉祐一郎の蒸留所訪問 韓国スリーソサエティーズ編(1)
国際的なウイスキージャーナリスト住吉祐一郎氏による
韓国初となるウイスキー蒸留所『スリーソサエティーズ』のレポートシリーズ(1)です。
この動画では、スピリチュアルアドバイザーであるアンドリュー・シャンドさんに
- 韓国でウイスキー造りをしようと決めた理由
- 蒸留所建設の場所探しについて
- この場所(ソウル郊外)に決めた理由
について、インタビューしています。
住吉祐一郎氏の取材記と併せてご覧ください。
住吉祐一郎の取材記(1)
韓国のスリーソサエティーズ蒸留所へ行ってきた!
韓国初となるウイスキー蒸留所「スリーソサエティーズ」への取材は、2022年11月に行いました。11月と言えば、日本も韓国も冬。気温が低くてとても寒い。ソウル郊外に位置する当蒸留所も例外ではなく、晴天にもかかわらず、車を降りた途端に切られるような寒さでした。
ソウル郊外にスリーソサエティーズが誕生したという話は以前から聞いて気になっていたのだけれど、取材はコロナに阻まれて叶わず、満を持しての訪問となりました。蒸留所は2020年6月に稼働を始めており、僕ら取材班が訪れた時点でおよそ2年半が経過していました。
アジアでのウイスキー蒸留所訪問と言えば、2015年に訪れた台湾のカバラン蒸留所以来でしたが、スコットランドの蒸留所とは異なり、アジア圏の蒸留所には、オリエンタルな独特の雰囲気があります。それを言葉でどう表現しようかな、と考えながら蒸留所のドアをノックすると、広報マネージャーのユービン・キム氏が満面の笑みで迎えてくれました。
キム氏はスコットランドのウイスキー業界で勤務した後に、ここスリーソサエティーズに移って来られたそうです。彼は韓国人なので故郷でのウイスキー造りへの可能性に期待してとのことでした。動画を見ていただくとお分かりになると思いますが、ユービン氏は常にニコニコ。その柔和な笑顔を見ているだけで、こちらの気持ちも自然と緩み穏やかな心持ちにさせてくれる、独特のオーラの持ち主です。そんなユービン氏から蒸留担当責任者のアンドリュー・シャンド氏を紹介して頂きました。
シャンド氏は、スコットランドで生まれ、スペイサイド地区に位置するロングモーン蒸留所で育ったそうです。ロングモーン蒸留所と言えば、日本のウイスキーの父と呼ばれる竹鶴政孝(注1)が修行した蒸留所としても有名です。シャンド氏は幼い頃からウイスキーに囲まれた環境で育ち、高校を卒業するとすぐにウイスキー業界へと足を踏み入れたそうです。クーパレッジ(製樽工場)から始まり、最終的には蒸留担当の責任者へと登り詰めました。
数々の蒸留所で勤務し、40年以上の経験を持つシャンド氏のウイスキー造りに対する飽くなき追求は、氏が製造しているウイスキーに反映されています。僕がまず興味を持ったのは、彼の技術ではなく、心構えでした。シャンド氏がビジネスパートナーから誘われて渋々ながらも韓国に来てみたら、環境や人々が大好きになってそのまま移住したという事実です。
ウイスキー造りは一代で完結するビジネスではありません。蒸留したスピリッツ(注2)を樽で熟成させて、何年、何十年もかけて育んでゆく、子育てのようなものです。今日自分で仕込んだウイスキーは、30年後、40年後には飲めないかもしれない。だから次の世代へとバトンを繋いでゆく。そのような息の長いビジネスを行うには、単にウイスキーが好きだという気持ちだけは抱えきれないくらいに広く深い愛情が必要なのだと思います。韓国を、ソウルを好きになり、故郷であり、ウイスキー造りの本場スコットランドからの移住という決断を下したシャンド氏に、僕はウイスキー造りに懸ける覚悟を感じました。
蒸留器が設置してある場所は「蒸留塔」と呼ばれていますが、建物の中へ足を踏み入れると、そこは外の寒さが嘘のような熱気で満たされていました。麦の香ばしさとアルコールの柔らかな香りで一杯です。
シャンド氏と握手を交わすと、氏はこの地でウイスキー造りを始めることになったきっかけを語ってくれました。僕がシャンド氏をウイスキー造りのプロだなとまず感じたのは、氏が場所や気候を気に入り、この地に蒸留所を建設してみようかと思い始めたときの言葉でした。蒸留所を建てようと迫るパートナーの言葉にすぐには飛びつかず、こう返答したのです。「水源があるのなら」。
ウイスキー造りには、多くの水が必要です。一般的には仕込みを行うための仕込み水が大切だと思われています。それは正しいのですが、さらに大切なことは、蒸留したスピリッツを冷やす冷却水が大量に必要だということです。どれくらいの量が必要かというと、例えば5000リットルの容量の蒸留器の場合、摂氏15度の冷却水が毎時22トン(!)必要と言われています。それは水道で賄えるような量ではありません。水がなければ始まらない。シャンド氏の一言に、ウイスキー造りを熟知している彼の考えが伝わってきました。
(※シャンド氏の具体的なインタビューは是非、動画をご覧ください。)
韓国ウイスキー蒸留所 スリーソサエティーズ編(2)では「スコットランドでの造り方との違い、韓国を象徴するウイスキーとは?、そして今後の目標」について紹介しています。
住吉祐一郎さんインタビューも是非ご覧ください。
住吉祐一郎氏の書籍紹介
ウイスキーに、誘われて
〜英語で旅するバーテンダー(ニュージーランド・カードローナ蒸留所編)〜
住吉 祐一郎/著 近藤淳司/編集
プラグインアーツパブリッシング
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