興味はあるけど、BARに行ったことがない方に、BAR「HONESTY」のマスター田頭大輔氏が、BARの様々な話やお酒のお話をお届けします。
引き算のカクテル
北千住駅からほんの数駅のところに、星を取ったとのことで人気のラーメン屋さんがあります。
噂で聞いていただけですが、大抵は並んで待つことになるそうで。
並ぶのが苦手な自分は、そのうち縁があればと頭の片隅に置いていました。
ある夜、もう数年前ですが、なにかの帰りでたまたまそのお店の近くを歩いていて、そう言えばと足が向いて。
お店の前まで行くと、閉店時間が近い遅めの時間だからかすぐに入れそうでした。
星付き、と思うと少々緊張します。
券売機の前で数秒悩み、初めてだし味の濃いものじゃない方が良さが分かるかなと、塩を選びました。
しばらくして、美しく澄んだスープの一杯が出てきました。
その透明感に惹かれ、やはりまずはスープから、と口にします。
ラーメンで感動したのは初めてだったと思います。
一切の雑味が無く、余分を感じる引っ掛かりも無く、見た目通りの澄んだ、磨き上げられた味わい。
丁寧に丁寧に仕事をしないとそうはならないことが、想像に難くありません。
なるほどこれが、と納得させられた一杯でした。
噛み締めながら、これはカクテルにも通ずる、と思ったんです。
今夜の一杯 ギムレット
例えるなら、それはギムレットでした。
ジンと、ライムと、それを繋ぐくらいの少量のシロップで作る、シェイクのショートカクテルです。
余計なものは加えず、ただただ丁寧に材料の旨さを活かし研ぎ澄ませた、これぞザ・クラシックカクテルの一つ。
作り手、飲み手、それぞれの好みもあるとは思いますが、シンプルな構成だからこそ技量が出ます。
思い返せば、最後に勤めていたお店でよく作らせていただいたカクテルです。
どこのBARにもいらっしゃることと思いますが、マスターが作る方が当然美味しいであろうものを、若手に作る機会をくださる大変ありがたいお客さま。
その方、長く千住でご商売をなさっていたSさんもそういう方でした。
もっとこういう方がいい、なんて仰りながら3杯も続けてギムレットを飲んでくださることもありました。
3杯も続けて作らせていただくと、感想をお聞ききしながら毎度考えて変えていくことができるので、自分一人でただ作るよりも上達に繋がるのです。
Sさんも、自分を成長させてくれた恩人の一人です。
おかげさまで、シェイクのショートカクテルを喜んでいただける今があります。

あの塩ラーメンを認識して依頼、調和した料理を口にするとカクテルを想うようになってしまいました。
ちょっとした変人です。
たまに相手も変人なことがあると、喜んでもらえるしそれも楽しいのですが、むやみに出さないように気を付けています。
飲んだり食べたりした経験の蓄積は、実際にカクテルのアレンジや構築に活きます。
特に自分は、自分で体験したことのないものを作り出すことができる程にセンスがあるわけではありません。
なので経験のため、と称してできるだけ出向くことにしています。
昔先輩に言われたことがありました。
借金してでもいい店に行け、知らないものはとにかく食べてみろ、なんて言っていた意味は、そういうことだったのかも知れません。
そうしている中で、自分がどんなものに満たされるのかがはっきりしていきます。
そしてそれを、自分の手で作りたいと思うのです。
その認識と自覚が、目指すべきカクテルの形に向かわせてくれます。
そこからは研鑽です。
結果は、お客さまの言葉に出ます。
その中でも自分が一番バーテンダーとして喜び、達成感があるのは、元々こういう液体だったかのよう、と言っていただけること。
それこそが自分の目指すカクテルです。
カクテルにもよりますが、たくさんの材料を混ぜる方が、自分は誤魔化しが利くと思っています。
その逆の、余分なものは削がれた、それ以上は足す必要のない、研ぎ澄まされたもの。
正にギムレットのようなカクテルにこそ、向き合い続けていきたいものです。
…万が一ですが、こってりの特製全部盛り、みたいなものにも別の感動をする日が来てしまったら、急に志向が変わるかも知れません。
その時はご容赦ください。
今日はバーテンダーの、職人的な部分のお話をさせていただきました。
退屈ではなかったでしょうか。
今度はおすすめのラーメン屋さんでも教えてくださいね。
本日もありがとうございました。

BAR HONESTY 店舗情報
■住所:〒120-0033
東京都足立区千住寿町2-17 松岡ビル4F
http://www.bar-honesty.com/
■電話番号:03-6806-1737
※お電話は営業時間内にお願いします。
■営業時間:17:00~翌2:00
定休日 水曜日
■12席 ※1グループ4名様まで 貸切応相談
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