興味はあるけど、BARに行ったことがない方に、BAR「HONESTY」のマスター田頭大輔氏が、BARの様々な話やお酒のお話をお届けします。
痛みに届くスピリッツ
「こんばんは。なにか決めていらっしゃいますか?
はい、大丈夫ですよ、ゆっくり選んでください。」
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当店にはBARに不慣れな初見の方がいらっしゃることも珍しくありません。
何を飲もうかじっくり考えているようなら、急かさないように距離を置いたりもしますし、
あんまりお悩みなら、こちらから好みを探って提案したりもします。この方もBARにはあまり行かれないのだろうなという印象でしたので、一旦間を置いて。
しばらくして、大変難しいオーダーをいただいてしまいした。
辛いことがあって、このまま帰ることができなくて。
そういう時に何を飲んだらいいですか、と。映画や物語の中ではよくあるシーンかも知れませんが、実際にはそう起こることではありません。
しかも初見の方。酔わせてあげたいですが、不慣れだと強めのお酒は毒になるかも知れません。
かと言ってあんまり弱いお酒では痛みを和らげられない。
味わいも、複雑だと気が散ってしまいそう。
口当たりが良く、難しくもなくて、ちゃんと酔えるもの。
それに、意味。そうだ、と思いついてジンスリングをお作りしました。
スリングの意味を少しだけ拡大解釈して、飲み干してしまえばいい、と添えて。
一口、一口と、飲み込みながらこらえておられました。
聞くべきではない、と思ったので、いつでもお応えできるようにとただ控えていました。
そうしているしかない、出来ることは無い。
こういう時の無力感は少々堪えます。1杯目をほんの数分で飲み終えて、同じものをください、と仰いました。
すぐにお作りいたします。そう起こることではない、と言いましたが、ないことでもないのです。
控えつつも、そういう時のことを思い出していました。
いつだったか、自分自身もどこかのバーのカウンターを濁してしまったこと。一杯目よりもう少しだけ時間をかけて、グラスが空く音がしました。
視線を向けますとまた、同じものを、と。
3杯目なので少しだけ弱めにはお作りしました。
酔いが回り始めたせいか、さすがに時間をかけて召し上がっていましたので正解だったようです。職業柄もあり今では多少マシにはなりましたが。
20代頃までの自分は特に、あまり社交的なタイプではありませんでした。
深く関わる、という面倒を避けていたのだと思います。
なので、時々は親しくなれそうな人を見付けても、不慣れで間が分からず、
些細なことで傷ついたり、逆に余計な一言を口走って傷つけてしまったり。
後者の方が辛かったかも知れません。
そういう時に、BARのカウンターに助けてもらっていたように思います。
バーで辛そうにしている方を見ると、時々そんなことを思い出します。そのうちに、他のお客さまもいらして。
3杯目のジンスリングも飲み終えたところで、お帰りのサインをいただきました。
ほんの少しだけ、お顔も和らいだように見えました。自分がなぜバーテンダーになろうとしたのか、思い返すような夜でした。
今日の一杯 / ジンスリング
ジンスリングは、ジンに少しの砂糖を加えて炭酸で割るだけ、という極めてシンプルなカクテルです。
シンプルだからこそ、バランスが整っていなければ美味しくは感じられないでしょう。
ベースがたくさん入っていてもジンをきつく感じないようにと、今回はプリマスを使いました。
ドライでなく、なめらかで、軽やかな柑橘やスパイスが心地良いジンです。
伝統的なジンで、現在イギリス最古の蒸留所で作られているそうです。
余談ですが。
ジンの語源であり、これが使われていないとジンとは呼べない、というジュニパーベリー。
その効能の一つとして、解熱作用があります。
映画や物語の中で、なぜか苦しみの中でジンを飲むシーンがある。
痛みを和らげるもの、として象徴的なお酒なのかも知れません。
今日はありがとうございました。
またお元気な時にも是非いらしてくださいね。
寒くなってきましたので、暖かくしてお休みください。
Information 記事で紹介したお酒 ■PLYMOUTH GIN /プリマス・ジン(Amazon)
BAR HONESTY 店舗情報
■住所:〒120-0033
東京都足立区千住寿町2-17 松岡ビル4F
http://www.bar-honesty.com/
■電話番号:03-6806-1737
※お電話は営業時間内にお願いします。
■営業時間:17:00~翌2:00
定休日 水曜日
■12席 ※1グループ4名様まで 貸切応相談
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