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Not Dry Martini / 今夜の一杯 マティーニ

興味はあるけど、BARに行ったことがない方に、BAR「HONESTY」のマスター田頭大輔氏が、BARの様々な話やお酒のお話をお届けします。

Not Dry Martini

「ドライマティーニ、ですか。
実は苦手なんです、自分が作るとなんでも丸くなってしまうみたいで。
物足りないかも知れませんが、ドライじゃないマティーニでもいいですか?」

事実、作るにしても自分が飲むにしても、ずっと苦手なカクテルでした。
お店によってはジンそのままよりも飲みづらく、一杯で疲れてしまう。
カクテルの王様、なんて呼ばれる意味も分からなかった。

それでもせめて自分なりにまずまずと思えるものをと、やっと及第点くらいのマティーニをお出ししていた、当店が3年目に入った頃でしょうか。
前に勤めていたお店の頃から、つまり当店を始まりから見てくださっていた、またたまたま同い年のお客さま、Tさんからお誘いをいただきました。
ある老舗のバーのマティーニを飲んでみてほしい、と。

Tさんは立派な企業に勤めていらっしゃいますし、お好きで方々の酒場を飲み歩いてらっしゃるので、お酒もお店もよくご存じです。
目的がマティーニなのは抵抗がありましたが、そのTさんが言うなら何かあるはず。
そう思ってお受けしました。

挙げられたのは、北千住からだと5つほど離れた駅の有名なBARでした。

実はもう少し若い頃に、一度だけお邪魔したことがありまして。
その時は現金しか使えないお店であることを知らず、荷物をそのまま席に置いて近くのATMまで走ったものです。
店主も時にはちゃんと恥をかいて、そういう勉強もさせていただいてます。
それが今では、1人のBARの主としてご挨拶をさせていただくこととなるわけです。

Tさんと待ち合わせをして、お店へと向かい、緊張感と共に扉を開きました。

時間も早かったこともあり、マスターはまだいらしてませんでした。
ご高齢なこともあり、お店に立たない日もあると噂で聞いて覚悟もしていましたが、運良くこの日は後ほどいらっしゃるとのことでした。
ではジントニックから、と1、2杯飲んでいると、マスターがお見えに。
待っていた旨をスタッフの方が伝えてくださり、ご挨拶させていただきました。

「彼もBARやってて、勉強のためにマティーニ飲ませてもらえませんか。」

同業者、しかも大先輩にはお願いし辛いことを、Tさんが代わりに言ってくださいました。
マスターもにこやかに受けてくださって、いよいよ向き合うことになります。

が。
正直に言いますと、メイキングは見ていて少し胸が苦しくなるものでした。
ボトルやミキシンググラスを持ち上げる手が、とてもお辛そうに見えて。
大先輩に対して、仕事をさせてしまって申し訳ない気持ちがありました。

そうして、二人分のマティーニがグラスに注がれます。
味わおう、なんて心構えではもういられなかったのですが、いざ口にしてみると。

驚愕でした。

なぜ、なぜあのメイキングで、こんなに甘く優しくて、なのに綻びなく一体感があるのか。
しかも常温の、ただのゴードンと、ただのノイリープラットで。
見ていた限り、確かに丁寧ではありましたがもっと水っぽいものを想像していたのに。
申し訳ない、なんて思うこと自体が既に無礼でした。
そのくらい、当時の自分にとっては完璧なマティーニでした。

今夜の一杯 マティーニ

こうして、自分の中に目指すべきマティーニ像が生まれました。

きっとTさんもそれが狙いで引き合わせてくれたのだと思います。

ドライではなく、甘くて丸いけど澄み渡ったようなマティーニ。

簡単に再現できるはずもありませんが、元々自分もカクテルの仕上がりは柔らかい方で。
方向さえ分かればあとはやってみるだけ。

なぜあの調和が生まれるのか。

メイキングを真似てみたり、考察と試行錯誤の末、これでいい、これなら美味しいと、自分でも思えるマティーニに近付けることができました。

そのまま飲んでも本当に美味しい、クラフトジンなどが無数にある昨今ですが。
やはり職人的性質も持つバーテンダーとしては、そこに頼らずに技を磨き続けたいもの。
でも自分は天才ではありませんので、体感したことがあるものからしか作り出せません。

だから今も、自分がより良いと感じる一杯を求めて、休みの日などはどこかのバーのカウンターで勉強させていただくのです。

飲み込んだものの蓄積がいつか、大先輩方の注ぐような感動を作るのかも知れません。

本日もご来店ありがとうございました。
またのお越しをお待ちしています。


マティーニ豆知識
NBA(日本バーテンダー協会)のオフィシャル・カクテルブックでは、ジン対ベルモットの比率3対1が「マティーニ」、4対1を「ドライマティーニ」、さらには7対1を「エクストラドライマティーニ」としています。

Information 記事で紹介したお酒 ■『ジン ゴードン』 ■『ノイリープラット』(Amazon)

BAR HONESTY 店舗情報

■住所:〒120-0033
東京都足立区千住寿町2-17 松岡ビル4F
http://www.bar-honesty.com/

■電話番号:03-6806-1737
※お電話は営業時間内にお願いします。

■営業時間:17:00~翌2:00
定休日 水曜日

■12席 ※1グループ4名様まで 貸切応相談

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