バーの仕事の実際
ー なるほど。田頭さんは、当初イメージされていたカクテルなどのお酒やバーのお店の雰囲気のカッコ良さよりも、バーテンダーのカッコ良さに魅かれたんですね。それでバーの仕事に就きたいと思われたのですか。
田頭 : でも当時バーテンダーはちょっと人気のバイトだったんです。
ちょうどそういう漫画の連載も始まった頃だったせいもあるかも知れません。
何件か面接に行っても「飲食業の経験は?」と必ず聞かれて。
採用されませんでしたね。
自分は音楽系の学校にいっていたので、卒業後もそのままバンドやってて。
それを続けるには就職じゃなくてフリーターの方が時間の都合が良かったもんで、割のいい深夜作業のバイトなんかを主にしてました。
接客系の仕事はほとんど経験が無かったんです。
やっぱりとりあえずでも飲食業の経験が必要なのかなと思って、ちょうどオープニングスタッフを募集してたチェーンの居酒屋から入りました。
それでもドリンク作る方に入れれば良かったんですけど、調理場に放り込まれて。
包丁もほとんど握ったことないのに(笑)
それでもバーテンダーになるためにと、我慢して一年ちょっとは居ました。
そのあと受けたバーの面接は、なんともあっさり受かってしまいました。
ー 念願のバーの仕事ですね。実際はどうでしたか?
田頭 :もう、叩き潰されました(笑)
六本木だったんですけど、そこは当時まだできたばかりのビルにあったバーで。
居酒屋だってそれはもう大変な忙しさだったし、それなりに働けると思ってたんですけどね。
仕事の「質」が全く違うことを思い知らされました。
精度とか、効率、クオリティ、あたりの言葉が当てはまると思います。
それに比べたら、自分が一年ちょっとでやったことなんてただの「作業」でした。
バーテンダーの仕事はもっと繊細で丁寧です。
分かってはいたつもりなんですけどね、横に並ばないと分からないことでした。
それに、やってはいけないことが多いです。細かな礼儀の部分ですね。
お客様へはもちろん、先輩方にも見られています。
先輩方は怒ってくれますが、お客様はきっと無言で去ります。
なので一番最初に覚える必要があるんです。
こういうのは運動部にいたりとか、社会人経験があればまだ良かったのかも知れませんが、自分はどちらもなかったのでスタートから躓きました。
散々怒られましたし、忙しくて先輩方の気が立っているときには……
(※編集部 :現在では超パワハラなお話だったので、自主的に割愛させていただきました)
それぐらいハードな所でしたね(笑)
バーテンダーの技術を学ぶ
ー 大変でしたね。でもやはり、お客さんへの気配りが基本なんですね。それから本格的にバーテンダーの勉強に取り組まれたのですか?
田頭 : そうですね、ただ本格的なバーは自分には難しいのかなと、もう少し身の丈に合いそうなダイニングバーや、カジュアルレストランあたりをいくつか見ました。
少しだけ覚えたカクテルを作る機会もありましたし、あとはそういうところの掲げている規律やマニュアルを知れたのは良かったです。
後にかなり生きてます。
そんな感じで三年くらい、ふらふら転々とした後に行き着いたのがとある銀座のバーでした。
六本木の時はちょっと大きなお店でしたけど、今度はマスターと二人だけのこじんまりとした、本当にバーです。
改めて、バーテンダーのサービスを密に教わったのはここでした。
― 銀座のバーと聞くと本格的なイメージです。やはりバーテンダーの技術が違うのですか?
田頭 :はい、少なくとも当時お世話になったマスターや、周りのバーテンダーの方々は凄かったです。
象徴的、かつあまりに衝撃的だったのは「水割り」ですね。
何度も先輩方に作らせていただきましたが、その先輩の一人がある時ひと口飲んで「あと二回(バースプーンを)回してみろ」って言ったんです。
それを自分も味見させてもらって、その二回回したことでもう劇的に旨くなったんですよ。
自分の手で、水とウイスキーを一つにする、その一体感というものを体験させてもらいました。
ただ水を足して割ってるだけではない、ということですね。
一つにする、全てのカクテルの基礎のように思います。
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