興味はあるけど、BARに行ったことがない方に、BAR「HONESTY」のマスター田頭大輔氏が、BARの様々な話やお酒のお話をお届けします。
磨かれていくもの
当店の入口の扉にはガラス窓が入っています。
店主は何か作業をしていても、視界の隅にそのガラス窓を入れていますので、
誰かいらっしゃれば大抵気付きますし、知っている方であればどなたなのかも分かります。
初めましての方かなと思えば、威圧しないように扉が開くまで気付かないフリをすることもあるのですが。
まだ誰もいらしていない早めの時間、扉越しにBさんがいらっしゃったことに気付きます。
当店のお客さまの中でも、特に酒場慣れしたお方です。
すかさず扉の方へ向き直り、迎える気構えをします。
扉が開き、目が合ったところで軽い会釈を。
Bさんはそのままいつものお席に座りますので、そこで腰を落ち着かせるのを待ってからおしぼりをお渡しします。
必ず一杯目に召し上がるものも決まっていますので、すぐにメイキングへ移行。
その間、お仕事やニュース関連だと思うのですが、Bさんはスマホと睨めっこしています。
ほどなく、一杯のカクテルが仕上がり、提供いたします。
お待たせいたしました。
今夜の一杯 グリーンアラスカ
この、必ず一杯目に、というのが「グリーンアラスカ」のソーダ割です。
ちょっとややこしいかも知れないので、順を追って少し解説します。
そもそも、「アラスカ」いうカクテルがあります。
中身はと言うと、ジンをベースに、シャルトリューズという薬草リキュールの、黄色と緑の二種類があるうちの、黄色の方を合わせた、シェイクのショートカクテルです。
この、黄色の方を使う、という前提があるものなのですが、わざわざ緑の方を使うと、名称をグリーンアラスカ、と分けることになっています。
おそらく、より日本人の口に合うということだと思っているのですが、日本ではこのグリーンアラスカの方がよく飲まれているような印象があります。
そしてその、ショートカクテルとして既に完成しているものを、更にソーダで膨らませる、というのが今回のカクテルです。
もう10年以上前だと思います。
初めてBさんが当店にいらした時、やはり一杯目がこのオーダーでした。
未熟だった当時、怖いお客さまが来てしまった、と大変緊張したことを覚えています。
完成しているはずの一杯を更にいじるというのは、玄人の嗜みと言えます。
でもどんなに緊張したところで、急に技量は上がりません。
初めて作るものでも、それでもできることをと、お好みはお聞きして、考え、ふり絞ったつもりの一杯をお作りしました。
もう2度目はないかなと思いつつ、その日の営業後に自分でも同じものを作ってみました。
ベースはあっちの方が良かったかな、バランスは変えた方がいいな、なんて考えながら。
その成果をお見せする日は、思っていたよりもすぐにやって来ました。
そんな風に、10年。
グリーンアラスカ・ソーダの形はもう、そう変わることはありませんが、
いつもその瞬間、その一杯と向き合うという姿勢は、色んなお客さまがこういった難しいオーダーを投げかけて、一緒に楽しんでくださったおかげだと思っています。
感謝しています。
大人になってからの方が、ちゃんと宿題をやるようになったかも知れません。
しかも楽しんで、成長しながら。
みなさんまだまだ無茶ぶりしてくださいね。

BAR HONESTY 店舗情報
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東京都足立区千住寿町2-17 松岡ビル4F
http://www.bar-honesty.com/
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※お電話は営業時間内にお願いします。
■営業時間:17:00~翌2:00
定休日 水曜日
■12席 ※1グループ4名様まで 貸切応相談




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