MENU

第42話 共有という真の課題

コンサルティング42

固まりつつある新規事業のアイデアだが、役員からの反対が……。
プロジェクトチームはどのように乗り切っていくのか!
(物語概要・登場人物の紹介はこちら)


「沢田さんと近藤さん、そして本宮さんのアイディアには『共有』というテーマが通底していますね」
と中野さんは言った。

「社員間のデータ共有、クライアントとの情報共有、すべてが共有という言葉に集約されて行っているようですよ。これはコアシステムという会社の、無意識に目指している方向性なんだと思います。他者と何かを共有すること、それは社会が機能するときに、重要なファクターの一つです」

僕は企画会議が終わって一息つくと、それまでの議題やドキュメントをまとめ、次回の企画会議、すなわち役員による意志決定会議に向けて、正式の企画書を作り始めた。
企画書も出来るだけ分かりやすくするため、以前本宮がやったプレゼンを参考にした。
ありがとう、本宮。

僕が意気揚々と企画書を作っていると、オフィスの電話が鳴った。
こんな時間に? もう21時だぜ? 営業時間外だから僕は無視した。
見たことがある電話番号だけど……すると携帯が鳴り始めた。
広末さんからだった。

「近藤君、忙しいところすまない、今会社だよね?」

「はい……どうかしましたか?」

「沢田さんから電話がかかってきてね。話を簡潔にまとめると、本宮さんから、どういうものを企画しているのか沢田さんが話を聞いたらしい。
なんでも、今のグループ・オンのアカウント管理機能とプロジェクト管理機能を改良して、全体的にもっと使いやすくするということらしいね」

「はい……そうですが」

「沢田さん、その案に反対らしいんだよ」

「ええええええ!?」と僕は大きな声で言った。「どうしてですか?」

「僕も良く掴めていないんだが、ともかく反対だそうだ。聞いた限りでは良さそうな案だと思うんだけど、詳細は来週火曜の会議で君からヒアリングするとして、ともかく先に知らせておかないと、と思って電話したんだ。
火曜日になっていきなり反対されたら近藤君も面食らうだろうと思って。
細かいところまでは分からないけど、沢田さんは『代わり映えしない機能を付け足しても今さらしょうがない』って言っていたから。……
ああ、すまない、合間に電話しているんだ、ともかくその点に留意してくれ。そこまで心配しないで良いと思う、僕は会議でちゃんと推すから! 心構えの問題だからね」

僕はやや自失呆然となり、はい、はい、と答えるだけだった。

どうしよう?
沢田さんが反対?
モジュールを作ったのは沢田さんだし、まさかその沢田さんが反対するなんて思ってもみなかった……。

寝耳に水の話で、僕は不安を抱えながら、
ともかく中野さんにメールをすることにした。
やはり夜中であるにもかかわらず素早いレスポンスが返ってきた。
電話で話せるか? ということだったので、僕は電話をした。
中野さんは、沢田さんの意図が良く分からないけれど、代わり映えがしない、という言葉がヒントかもしれない、と落ち着いた声で言った。

「今以上の情報共有、プロジェクト管理機能の向上は方向性として間違いないので、販売・売り上げ増といったユーザー獲得の視点を企画書に盛り込みましょうか。
クライアント企業向けに無償提供できるアカウントは、正規版のアカウントに昇格出来る。
つまりプロジェクト管理機能を無償で利用してもらった後に社内のグループウェア検討の際にはそのままグループ・ワンに繋げることが出来る……
そういうプロモーション企画を絡めることで説得力を高めましょう」

僕は礼を言い、電話を切った。
誰かと話せたことでひとまず落ち着きを取り戻せた。
契約社員である前田はともかく、社員の本宮に連絡を入れようかどうか迷ったが、そんなことを伝えても土曜日曜に仕事をさせるのも気が引けるし、と思い直して連絡をするのを止めた。

僕は自分の不安を冷静に受け止め、分析した。
まず、火曜まで4日しかないこの段階では変更など出来ない。

僕らチームは中野さんと四苦八苦しながら時間を割き、必死で企画を考えてきた。中野さんは『共有』がテーマだと言っていた。
コアシステムが進むべき道は、僕ら社員の中で正に知らないうちに共有され、すでに出来上がっているのだ。僕らチームは自信を持っていい。

今ここで僕が自信を失えば、僕らは空中分解する。

大丈夫、間違っていない。
新規事業は、グループ・オンをSaaSに移すだけではない。
ユーザーにとってもっと便利に、もっと使いやすく、それを心がけてやってきたんだから。
ユーザー本位は、間違っていない。

第43話 「ユーザーは何が欲しい?」に続く

コンサルティング42

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

この投稿がよかったらシェアお願いします!
  • URLをコピーしました!

この記事に関するコメント

コメントする