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第41話 開発者に必要な視点

コンサルティング41

これまでのあらすじ
近藤は東京の中小ICT企業「コアシステム株式会社」で働くエンジニアである。
プロジェクトメンバー、そしてICT専門コンサルタントの中野と共に進めてきたSaaS型アプリの企画もいよいよ佳境を迎える。

SaaS型アプリの企画案を、ICT専門コンサルタントの中野と共に練ることになったリーダーの近藤。メンバー間のコミュニケーションにより、アイデアが一気に現実味を帯びてくる。(物語概要・登場人物の紹介はこちら)


あの夜、本宮が沢田さんの開発した「グループ・オン企業間連結モジュール(仮)」を
借り受ける電話をした後、僕は喜び勇んで中野さんにメールした。
アイディアが上手くまとまりそうです、云々。

このモジュールがあれば、その名の通り、グループ・オンのデータベースで、企業間の枠組みを越えて柔軟に連結することが出来るようになる。
そうすればグループ企業間で社員が移動するときも簡単な手続きで情報を移行・共有することが可能だ。
(下記の例を参照)

例:
親会社A社のもと、子会社a社と子会社b社のグループ企業が合同プロジェクトを実施するとき、子会社a社の社員Xの情報を管理・共有したい。

■これまでのグループ・オン
→新たにA社、b社にアカウントを作り、
一から情報を組み立てて行く(手続きが非常に煩雑)

■これからのグループ・オン(=グループ・ワン)
→A社、a社、b社のいずれでも簡単に情報を共有できる(手続きが簡素化)

さらに一歩踏み出す格好として、これに本宮の「クライアントといっしょ☆」のアイディアを組み合わせる。
グループ・オンのプロジェクト管理ツールにエッジを利かせ、対クライアント企業とのプロジェクト管理ツールを作成し、連携させるようにする。

僕と本宮のアイディアを足すことによって、単なるグループ・オンのSaaS版を作るというだけでなく、またクライアントとのプロジェクト管理機能だけの開発ということでもなく、幅広いクライアントに訴求できるようになる。
チームの勝利だ!

気がかりは前田のことなんだけど……
スマホファーストと言っても、うちの会社はスマホアプリを作ったことはないし、予算の面でも厳しいからね……。
何とかしたいのは山々なんだけど……。

そんなことを考えていると、夜中であるにも関わらず、素早いレスポンスが中野さんからあった。
どうやらこれで行けそうですね、という内容だった。
僕は嬉しくて、誰もいないオフィスでやったー!
と一人大声を出してしまい、誰もいないのに恥ずかしくて、思わず手で口を覆った。

その後は6月の第1週の金曜に開かれる第6回企画会議に向けて、企画書の叩き台を作った。企画会議は残り3回だ。
翌週火曜の7回目にはこの企画書を役員にプレゼンし、意志決定を仰がないといけない。

金曜日、すなわち今日、つい先ほどまでの会議の内容だけど、議題になったのはアクセスコントロールについてだった。

例えば正規社員と非正規社員とでは、アクセスできる情報にそれなりの権限の差があって然るべきだが、それが厳密に守られているとは言いがたい状況があると中野さんは言う。

プロジェクトメンバーに非正規社員が多いある企業のプロジェクト資料が、社外秘の資料(売上データなど)と同じファイルサーバ内に置いてあり、アカウントを持つ者であればディレクトリを遡ることで、誰でも閲覧できる状態にある、という事態も起こっているらしい。
セキュリティを犠牲にして、利便性を取っているとも言えるかもしれない。

そこでグループ・オンのSaaS形、グループ・ワンでは、適切なアクセスコントロールを出来るように当然配慮すべきだ、と言う意見が、沢田さん開発「グループ・オン企業間連結モジュール(仮)」の資料を観た中野さんから出た。
沢田さんは上席が誰にどの権限を与えるのか、というきめ細かなアクセスコントロールを計画していたらしい。

僕はそれを見たとき、それは不要な機能だとばかり思っていたのでびっくりした。
これも僕の開発者としてのみの視点なんだろう。
だけど中野さんの話を聞いていて、なるほど、と考えるようになった。
それに気づいた中野さんもすごいが、それを3年前に着目していた沢田さんもすごい。
ちょっと苦手な人だな……と思っていたけど、こんなに使う人の身になって考える開発者だったんだ。

僕も開発者として、反省しないといけない。

もう一つ大きな問題だったのが、果たしてクライアントに本宮の提唱するツールを使ってもらえるかどうかだ。
これも中野さんが提案してくれた。
それはグループ・ワン(僕が考えたこの名前はもう決定で良いよね!?)のライセンスを持っているユーザ企業が自社のクライアントに対して、共同で行うプロジェクト管理機能に限定した無償アカウントを発行・付与できる機能を付けるというものだった。

これらのアイディアは、僕と本宮のアイディアが実現しそうになったとメールで知ったあと、瞬時に中野さんは着想したそうだ。
僕と本宮がすごいですね、と漏らしたところ、中野さんは、これは当然、僕らのアイディアがなかったら出てこないものだし、やはり共同作業の成果なのだ、と言った。

すごい、すごすぎる。これがコンサルタントの力か……!
恥ずかしいけど、すごいという言葉以外、出てこない……。

第42話 共有という真の課題」に続く

コンサルティング41

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