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第39話 光が差した

ギクシャクしていたアシスタント本宮との関係も少し落ち着いてきた近藤。
突然、彼女から重要なヒントが! アイデアが現実味を帯びてくるのであった。(物語概要・登場人物の紹介はこちら)


そこで僕はもちろんキットカットを購入し、オフィスに戻るエレベーターの途中で息を整えた。

そう、僕は彼女が好きではなかったんだ。
だから嫌いなところばかり目が向いていたんだ。

「はい、これ」僕は荒れた息を整えながら、キットカットを彼女に渡した。
「お疲れ様」

僕はそう言って、にらみ返す彼女に、できる限りの笑顔を送った。
本宮は僕の目を見て、すぐに目を逸らした。

「……なんですか、これは」とぶっきらぼうに言った。

「頑張っている人へのご褒美だよ」と僕は言った。
「君の好きなレギュラータイプ。お疲れ様です」

本宮は受け取ったキットカットを手にとってふうん、と言う感じでパッケージの裏表を見た。

「まあ、くれるって言うんだったらもらっておきます。でも、こんなもので懐柔できると思わないでくださいよ」

「ははは、キットカットで手なずけられるんだったら、毎日買ってくるよ」

「じゃ、お願いします」またふん、と本宮は笑って言った。

「……ああ、いいよ。毎日買ってくる。本宮さん、頑張ってくれているしね」

本宮は黙り込んだ。一瞬、間があった。

「……近藤さん」

「何?」

「……何でもないです」

「そう?」

本宮は黙り込んだ。
僕はアイディアシートにコメントを書き込んでいた。

「……近藤さん、うちのグループ・オンのベースって、義兄(あに)がほとんど作ったんですよね」

僕はタイプする指を止めた。

「うん、そうだよ。すごく良く出来たグループウェアだ。あのユーザーインターフェイスは業界トップクラスだね。そこは全然いじってない」

「そこは全然いじってない……と言うと?」

「あのね」僕は正直に言うことにした。
「沢田さんは理系出身だけど開発畑の人じゃないしさ、元々は営業だからね。そんな人が、一人で開発したからすごくクセがあって、初めのうちはずいぶんとバグ取りに苦労したんだよ。それと機能が足りなかった。
3年前のリリース後に、つまり君が入社する1年前、坂石、僕の初期メンバーが今の機能を整理して構築してしたんだ。
でもソフトウェアって知ってると思うけど、骨組みが大事なんだよね。それは素晴らしいよ。そしてユーザー体験の質が高い。そこが大事なんだ。
沢田さんは色々その後もモジュール開発にのめり込んでいたみたいだけどね、営業で忙しいからストップしているのかな」

「あ。思い出した」

「? 何を?」

「思い出しました、『モジュール開発の中止』で! さっき近藤さんが言っていた開発、たぶんほとんど出来ています!」

「え、どういうことなの?」と僕は驚いて言った。

「私の父、ある大手メーカーの本部長なんです。父が昔、君の所のグループウェアを提案してくれ、って義兄に伝えたんですよ。
私がアメリカから帰国してコアシステムに入る前だから2年前ですけど、作ったWebアプリの機能だけでは大企業向けの管理が出来ないから今、モジュールを新規で作っているって。
私、文系でマーケティングをメジャーで専攻していたからシステムの仕組みが良く分からなくて、義兄が絵を描いて説明してくれたんです。
その時初めて義兄の絵を見たな、って少し印象に残っているんですよ。
そうそう、従来のグループ・オンのデータベースを、企業間を越えて柔軟に連結させるモジュールだ、っていう感じで解説していました。
ほとんど出来かけた時に提案はうやむやになって開発中止したはずですけど、モジュール自体は残っているはずですよ!」

「本当? それがあれば、僕の方は一気に開発コストも期間も抑えられる!ということは本宮さんの案が優先されて……待って!だったらクライアントとのプロジェクト管理にエッジを利かせたSaaS版のグループ・オンを作って、後の機能は順次SaaSに移行する、という風にすれば、リリース条件は整う!」

「私、義兄に聞いてみます!」
本宮は急いでスマホで沢田さんに連絡を取った。

第40話 「この案で行きましょう!」に続く

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