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第34話 制約だらけのアイディアシート

何とか社内外の環境調査・分析を終え、新たなアイデアを出し合う次のステージへ。
果たして各自のアイデアをうまくまとめていくことが出来るのか?(物語概要・登場人物の紹介はこちら)


今回の企画を検討する上での社内外の環境調査・分析が終わった。
我らがプロジェクトの、おおよその目指すところが固まってきた。

前回、中野さんとの話し合いの中で短期間・低コストという制約から、当社のグループウェア『グループ・オン』を発展させたソフトの開発が現実的だという結論に達していた。

全8回の企画会議のうち3回目に向けて、社員は出来るだけ各自アイディアシートを書いて提出するよう中野さんに依頼された。
僕が営業の中里にとりまとめを依頼したところ、最近留守がちな広末さんがたまたまデスクにいて、よしそれじゃ私がやろう、とおっしゃってくれた。
広末さん、お忙しいのにありがとうございます、と僕は感謝の意を伝えた。

「なに、あまり役に立ててないからね、何か手伝わないと後ろめたい」
髪を短く刈り込んでいた広末さんはハハハ、
と大きな体から出す、いつもの大きな声で笑った。

翌日火曜日。僕は中野さんがオフィスに来る2時間前の11時に、アイディアシートにざっと目を通すことにした。

営業部のとりまとめ分、そして本宮と前田のシート。
ええとなになに、本宮のタイトルは「クライアントといっしょ☆」、前田は「スマホファースト」、営業部は……えっと……箇条書きのメモ……。
そこには良いアイディアが出なくてすまない!と広末さんが書いた付箋が貼ってある。
ええ、まあ良いと思います、お忙しいでしょうから……。

正直困った。

前田は良いとしても本宮の「クライアントといっしょ☆」というのは結構ふざけているね。
もうね、開発チームのチーフとして中野さんに土下座するレベルですよ。

アイディアシートには、最上段にタイトルといくつかのキーワードが並び、その下にチャートのような概略イメージが描かれる。
その右にはその企画の概要、メリット、リスク、そして成長予想の箇条書きが書かれ、一番下の広いスペースが空けられた段はその詳細となっている。

僕は本宮のふざけたアイディアシートを読んでみた。
……あれ? ええと、それほど悪くないかも……。

中野さんがやってきた。今週で5月も終わりだ。
汗ばむ季節だが、中野さんは細身の黒いスーツを全身に纏っている。
「黒いガンダム」と呼んでください、と訳の分からないことを言って、いつも僕の対応を困らせる。
なんなのこの人ニュータイプなの? と僕は心の中で突っ込んだ。

「それでは近藤さん、始めてください」
という中野さんの静かなかけ声で企画会議が始まった。
メンバーたちのアイディアシートを一つずつ検討する。

営業部はアイディアと言うより、要望が多かったので最後に回すことにした。

まずは本宮の「クライアントといっしょ☆」だ。
名前はどうかと思うが、なかなか面白いアイディアだ。
それはクライアントと共同で使用するプロジェクト管理ツールだった。
我々開発メンバーにとって頭痛の種はプロジェクトの進捗管理だ。
全体的な開発タスクの洗い出し、進捗状況の管理はもちろん、クライアントへの報告・確認依頼も含めて効率的に管理する必要がある。

当社内のプロジェクト管理は、グループ・オンのプロジェクト管理機能を活用して特に大きな問題もなく既に実施できている。
しかし、それがクライアント企業との間になると、定例ミーティング時にまとめて直接伝達・確認をすることが主で、その他メールや電話、Excelファイルなどを用いた、
ばらばらとしたリアルタイム性のないやり取りが行われている状態だ。

「言った・言わない、見た・見ていない、送った・送られていない」などのトラブルも多く、煩雑なタスク管理の中では、いつの間にか、今誰がボールを持った状態なのかが分からなくなってしまう。

これらの問題を解決するために、クライアント企業間で共通利用できるSaaSのプロジェクト管理ツールを作るというのが本宮の案だった。
彼女が開発プロジェクトにおいて、一番イライラする点を解消したいという思いからの発案だ。
確かにこれは便利だし、グループ・オンの機能の一部を使い回せる。

ただ問題がある。一つは広く一般的に利用できるグループウェアとは異なり、機能が絞られたものとなるため、果たしてどの程度の需要を喚起できるのか。
もう一つは実際にクライアントに使ってもらえるかどうかだ。
どんなに開発会社にとって便利でも、相手に利用を強要できるわけではない。
この点は要検討ということになった。

第35話 「スマホファーストというUX」に続く

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