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第33話 言わなきゃ分からない

お互いの遠慮もあり、本宮とギクシャクする近藤。
プロジェクトを上手く進めるためのリーダーとアシスタントのコミュニケーションの在り方を考え始める。(物語概要・登場人物の紹介はこちら)


中野さんを見送った後、僕は本宮と二人で後片付けした。

「近藤さん、どうして『こうしてくれ』って指示出してくれないんですか?
さっき中野さんに『近藤さんが大変そうだから手伝ってあげてくれ』って言われて、すごく恥ずかしかったです」

急に本宮が僕に話しかけてきた。僕の目をじっと見ていて、僕は思わず視線を逸らしたくなったが、逸らせなかった。
かなり強烈な視線だ!

「いや、それはさ……アシスタントというのは、自主的に動くのが当然、って言い方はきついかもしれないけど……」と僕は心の内を正直に告げた。

「私には、近藤さんが全部自分でやるから余計なことはするな、っていう風に見えましたが。何も言わずにさっさと何もかもやってしまうし」

相変わらず言い方がきついなあ。ホントに。
僕が黙っていると、本宮はため息をふう、とついて両手のひらを上に向け、肩をすくめて首を傾げた。欧米か!

「キットカット、私はレギュラーが好きなんです。ストロベリーとか、期間限定のヤツより。覚えておいてください」

僕はその言い方にさすがにカチンと来た!
おい! と思わず口に声が出そうになったその時。

本宮は僕の顔を見てにっこり微笑んだ。
それがあまりにも周りがきらきらと輝くような微笑みだったので、僕の気持ちとは裏腹に、無意識に笑顔になってしまった。

そしてコーヒーを淹れにデスクに戻る頃には、彼女に対する怒りは雲散霧消していて、もうどうでも良くなっていた。
女の子はずるいよな、と心底思った。

「すみません、私としたことが忘れ物をしてしまいまして」

中野さんがオフィスに戻ってきた。

「中野さんが忘れ物ですか。でも、気づかなかったですね」

一緒に会議室に向かった。
後で充電しようと携帯の補助バッテリを隣のイスの上に置いたまま、忘れてしまっていたとのことだった。
中野さんはごそごそと、例の重そうなカバンの中を整理していた。

「中野さん重そうですね。鉄アレイでも入れているんじゃないですか?」
と僕は中野さんを軽くからかった。

「あれ? どうして分かったんですか?」
と言って中野さんは“5K”と書かれた青い鉄アレイを出した。

「え」

「鍛えてますんで」

本当にこの人に任せて大丈夫なんだろうか……
という一抹の不安がF1のレーシングカーのように目の前をさっとよぎった。
速すぎて分からなかったから、まあ良しとするか。

小野正博のワンポイントアドバイス⑫

余談ですが、僕もMacBook Pro 17インチを一時期毎日持ち運んでいました。
今は13インチなので、何をするにも軽くて小さくて便利(笑)。
15インチですら大きく見えてしまうので、慣れとは恐ろしいものです。

さて、そんな慣れから来る思考停止や無関心でもって、意図も理解せずに従っていたルールや、単純作業のように感じられる業務は、組織としての体裁が整っている企業ほど多く存在していると思います。

皆さんは子供の頃、多くの「なぜ?」を抱えていませんでしたか?
またそれを口にして、大人から「何でもいいからやるの!」などと、面倒くさがられませんでしたか?
僕は間違いなくそんな面倒くさい子供だったと思います(笑)。
誰かに教わったこと、本で読んだことなどは自分で確かめてからでないと、信じることができませんでしたし、納得できないことには従いませんでした。

やがて、誰と何が信用できて、誰と何が怪しいかを見抜くようになり、知識・情報収集の効率化と、自分がどこまで心情的に譲歩すれば周囲が上手く回るのかということを学習したのです。

さて、子供の「なぜ」と大人の「なぜ」は違うはずだと考えます。
その心は物語中にほとんど語られていますし、これからまた語っていきます。
一つひとつの仕事にも意思が心が思いがあること、熟考されていること、疑問や関心を早々に捨てないこと。

処世術というものも頭の片隅に置いておきつつ、他の手持ちのカードを見てみましょう。
今なら切れる強いカードがあるのではないでしょうか。
手札を揃えるのも、捨ててしまうのもあなた次第。
少しでも有利になるようなゲームメイクのヒントをこれからもお届けしたいと思います。

第34話 「制約だらけのアイディアシート」に続く

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