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第32話 失敗の定義

本宮の素晴らしいプレゼンに驚く近藤。
ちゃんと書かれていない日報の原因さえつかめない近藤。
果たしてこれからメンバー一致団結でプロジェクトは進むのか?(物語概要・登場人物の紹介はこちら)


「とても分かりやすいですね、大変だったでしょう。本宮さんのプレゼンに付け足すことはないです。
私の方では、今後、当社の強みを活かした方向で開発すると仮定した場合の競合サービス、SaaSソフトの理想のライバルをリサーチしています」

中野さんの解説だと、当社にはグループウェア「グループ・オン」という財産があるので、それを活用せずに全く新しいものを作るのは短期間・ローコストを考えた場合、現実的ではないということだった。

これは僕も全くの賛成だ。だがそれだと競合相手が多い。ではどうするのか?
これが残り3週間、当面の取り組むべき課題という結論に達した。

「近藤さん、いかがでしょうか?」と中野さんが僕に尋ねた。

「はい、本宮のプレゼン通り、SaaSの利用意識は高いです。むしろ活路を求めるとするならば、ここしかない。そのように僕も思います」
と僕は頷きながら言った。
「それにしても、本当に本宮のプレゼンはすごかったです。新たな一面を発見しました」

本宮はややうつむき加減でどこかを見ていた。

「それで、日報の件なのですが」と中野さんは切りだした。
「近藤さんはよく分からないと言うことですが、ひとつ例を挙げると、フォーマットがあるのに、それに則って書かれていないことがあります」

僕はそうなんです、と正直に答えた。どうしてなのか、僕にも分からない。

「それは、なぜこのことをやるべきかを良く理解していないから、ということになります。浸透してないから、仕事をこなすだけになっている。
例えばもしクレームが生じた場合、担当者の記憶だけではフォローできない場合もあります。原因を分析しようにも、当てがありません。
全てを書く時間はなくとも、たったひとつでも気がかりなことや違和感を書いておくだけで、それが後々に重要な意味を帯びることもあるのです。
『問題ない』では、日報は書く意味がないかもしれません。これは会社共有の財産なのですよ」

続けて、中野さんはチームとしてだけではなく、会社全体として創意工夫が欲しいと言った。
利益をあげることをみんなで考えて欲しい。
その為には営業も開発も関係ない。今は上に言われた仕事をこなすだけの、悪い意味でのトップダウンになっている嫌いがある。
多くの人は、自分で考える頭を持っているが、使わない。
それは自分の考えを発言すると、責任が生じてしまうからである。
責任を負わされると、逃げ場がなくなってしまう。

昨今、不景気で多額の予算が付くプロジェクトはもちろん、小規模なキャンペーンなどにおいても失敗を許容できないケースが増えている。
失敗すれば担当者は次の担当を外されるかもしれない。
だから強い不安と恐怖に襲われる。そんな責任を誰も背負いたくない!
だから考えるより、上司や他のメンバーにはいはいと追随していれば良いのだ。

「今は失敗を許容できない世界になっています」と中野さんは言った。

「潤沢な予算も明るい未来も、無邪気にあるとは言えない状況です。しかし、失敗することが出来ない世界では、人の成長もありません。なぜなら、成長とは克服のプロセスだからです。
失敗から学べることも多いですよね。あるいは失敗からしか学べないこともあります。重要なのは次に繋げていくことであって、そこで終わりにしてしまうことこそ許されないのです。そしてやる本人も、失敗を恐れるより前に本気になれ!と私は声を大にして主張したいです。
そもそも絶対に失敗できないと言っても、どの程度の失敗か、そもそも失敗はどこからを言うのか。
もし仮にこのプロジェクトの失敗が、『プロジェクトが赤字を招き会社が倒産する』という意味なら、私は絶対に失敗をさせない自信があります。
『失敗』のハードルを上げ、絶対に初年度から黒字にならなければ失敗というのなら、私は仕事を引き受けられません。
本プロジェクトが例え今期赤字でも、来期以降に向けて着実な成長が見込める物を作り上げたいと思います」

充実したミーティングが終わり、僕はPCの前田をオフラインにした。

第33話 「言わなきゃ分からない」に続く

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