これまでのあらすじ
近藤は東京の中小ICT企業「コアシステム株式会社」で働くエンジニアである。
SaaS型アプリの新規企画案を、ICT専門コンサルタントの中野と共に練ることになった。
一癖も二癖もある役員とプロジェクトメンバーとの間で、近藤の苦戦奮闘が続く。
(物語概要・登場人物の紹介はこちら)
次回のミーティングまでに必要な各部署の日報に愕然とした近藤だったが、自らの日報を改めて見てさらにショックを受けるのだった。
なんじゃこりゃあ!!!
と思わず大きな声が出て、僕は左右を見回した。
誰もいないオフィス。営業部の方は電灯を落としてある。
そういえばいつの間にみんな帰ったんだろう。
僕は深呼吸をして、冷静になって自分が書いた日報を読み返してみた。
やっぱりそうだ。営業部の日報だけがおかしいんじゃない。
中里を責めていたけど、何のことはない。
開発部の日報も、僕が一生懸命書いていたつもりなのに、日によっては「特にない」「問題ない」と締めくくってある。
問題ないわけないじゃん!!
いや、待て……良く分からない。これの何が問題なのだ……?
中里も問題ないと書いているし、僕も問題ない、と書いた。
僕の方は、日によっては、印象深いことはしっかり書いてある。
坂石のフォローでなんとか期限に間に合っただとか、困難なタスクをなんとかメンバーでやりとげただとか。
本当に良く分からなくなってきた。
僕は時計を見た。11時を過ぎている。
たぶん、これ以上考えても埒が明かない。
さらに今週は不慣れなデータ集めに現場の仕事も重なって、疲労も限界だ。
何度か倒れた経験からしても、ここで粘ると後々、各方面に迷惑がかかってしまう。
そもそも、頭が上手く働かない。
中野さん、すみません。許してつかあさい。
日報がおかしなことになっている、と僕は正直に、中野さん宛にメールを書いた。
なんとか分析しようとしたが疲労も限界で、これ以上は厳しい、と。
僕はため息をついてPCの電源を落とした。
翌日。
中野さんがいつもどおり、大きなバッグを携えてやってきた。
あまりにも重そうなので、鉄アレイでも余分に入れているんじゃないかと疑ったぐらいである。もちろんMacBook Proと資料だ。
「近藤さん、お疲れのようですね」
と中野さんは僕の顔を見るなり言った。
僕は何も言えず、ただ苦笑いをするだけだった。昨日はよく眠れなかったのだ。
「中野さん、すみません……」と僕は消え入るような声で言った。
顔が自己嫌悪で自然に歪んでしまった。
「近藤さん、大丈夫です。問題ありません」と中野さんは言った。
「さあ、ミーティングを始めましょうか」
ミーティング5分前。僕は資料を取りに自分のデスクに行き、紫色のUSBメモリを見つけて顔が真っ青になった。
提出が遅れていた、本宮の市場調査の資料だ。
昨日受け取ってからドタバタしていたので目を通すのをすっかり忘れていた……!
なんてことだよ、近藤淳。
もうね、泣きたいくらい。


この記事に関するコメント