コンサルタント中野に次回のミーティングまでに用意を依頼された各部署の日報。
内容を見て愕然とする近藤。果たして日報の意味とは?
(物語概要・登場人物の紹介はこちら)
木曜日。この日も雨が降って肌寒い。
今年はどこか天候がおかしい気がする。
なんか今年はおかしいねえ、なんてコーヒーを飲みながら坂石と話していると、沢田さんからメールが来た。
沢田さんは開発方トップだが、最近は出ていることが多い。
メールには閲覧の権限をやるから開発部日報のデータをダウンロードして良い、との旨が書いてあった。
僕は早速、中野さんにデータを送るため編集に入った。
開発部日報を読み返す。随分と忘れていることが多いけど、こんなこともあった、あんなこともあった、という感じでしばらく読みふけっていた。
いかんいかん。早くデータを作らないと。
データを書き出し、同じく広末さんから閲覧権限をもらっていた営業部日報をクリックした。トラックボールを動かす手が固まった。
なんだこれ? え? 何?
すかすかなのだ。フォーマットどおりにすら書いていない。
問題ありませんでした、特に報告事項はありません、という言葉が並ぶ。
そんなわけねーだろ!!
は? マジで? 営業部の連中は、比較的真面目で仕事熱心なヤツらばかりだ。
承認マーク欄を見ると、営業方トップの広末さんのチェックが入っている。
ということは、これでオッケーを出していることになる。
あの広末さんが?? まさか。
僕はトップページから一覧表に行き、承認マーク「◎」を確認した。間違いない。いくつか抜けがある。
僕は茫然自失となった。
なんだこれ? どうしてこんなことになっているんだ?
営業部の広末さんのデスクを見る。いない。広末さんも出ることが多い。
沢田さんもいない。山岡さんはどうだ?
僕はいても立ってもいられなくなり、社長室に向かった。
いない。どこだ? 坂石に山岡さんは? と聞くと、急な用事があってさっき出て行った、とのことだった。
役員トリオみんないねえし!!
いやいや、そういや毎日いないや!
どうすればいい?
今日中に中野さんに送る予定なのに、これじゃデータが……。
その時、営業の中里がデスクにいるのを僕は認めた。
急いで彼を呼びに行き、腕を引っ張るような形で自分のデスクに連れてきた。
彼の営業部日報を見ながら、どうしてこんなことになっているのか、なんとか冷静を保ちながら尋ねた。
「え? ええと、うん、確か入社当初はしっかり書いていたんですが、広末さんがもう少し気楽に書いていい、っておっしゃるんで……。広末さんも忙しい方だし、自分が書いたものには誤字以外は指摘されなくて。それに特に問題なく承認マークが付いているので、これで良いものと思っていたのですが……何か問題ですか?」
大問題だよ!! これじゃ日報の意味ないじゃん!!
大丈夫大丈夫、仕事に戻って良いよ、と僕はできる限り穏やかな感じで伝えた。
きょとんとする中里。笑顔が引きつる僕。
冷静に、冷静に。
ともかく、今はどうしようもない。広末さん、沢田さん、山岡さんのいずれかが戻ってくるまでは自分の仕事を進めないと。
そうは言ったものの、ほとんど仕事に手が付かず、いつも以上に残業することになった。
タイムカードをがちゃじーと押し、デスクに戻った。
結局役員は出先から戻ってこなかった。
ようやく冷静になった僕は、そういえば5月に入ってから、役員のいない日がやけに多いことに気づいた。どうなっているんだろう。
仕方ない。今あるデータをまとめよう。今日中に中野さんに送る約束だ。
疲れはピークだが、明日の金曜をなんとか乗り切れば休みだ。
僕はコンビニで買ってきたサンドウィッチをコーヒーで胃に流し込みながら、ぼうっとする頭を2、3回叩いてディスプレイに向かった。
そして自分の書いた日報を読み返した。
キーボードを打つ手が止まった。手がわなわなと震えだした。
な、なんじゃこりゃあ!!!
はい、今回も近藤はぐるぐると頭も体も回りっぱなしですね。
プロジェクトを引っ張るために、リーダーとして奔走する姿を見て、これからもっとイジメてあげたくなってきました。
さて、ごくごく当たり前のこととして日々書いている日報や、作業報告書には、本来どのような意味があるのでしょうか。
それが会社のルールとして決められていることが多いのは何故でしょうか。
記入する際に、どういう意識でどのように書けばよいのでしょうか。
これは一例ですが、およそどんな事柄にも当てはまる問いかけであり、その答えを明確に持っていない言動は全て、ビジネスでは実に危ういのです。
自分は何故(今)これをやらなければいけないのか
何のためにこれをやっているのだろうか(やってきたのだろうか)
それらの結果として何がどうなるのだろうか(なったのだろうか)
指示や規則に従うだけ、何とか周囲に着いて行こうとしている新人の間は、実際そのようなことを考える余裕がないのかもしれません。
しかし、周りを見回せば経験年数に寄らず多くの人が、「何故」、「何のために」という疑問を持つことなく、ただ単純作業のように「仕事」を片付けている姿を目にすることがあります。
そしてこれらのことは、上手く人に対してその意義を説明できないのです。
これからのコアシステム社でメンバーの意識がどう変わっていくのか、中野はこの現状分析で何を明示し、それを受けた近藤は何に気付き、そして解決へとメンバーを導くのでしょうか。
次回以降に益々期待したいですね。


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