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第26話 本音を知るは痛みを伴う

新規事業開発物語 〜中小企業のためのコンサルタント活用術

プロジェクトメンバー唯一の女性、本宮リエ。
酒癖の悪さからついつい本音が爆発。普段から溜まり溜まった不満の矛先が近藤へと……。
(物語概要・登場人物の紹介はこちら)


役員がいなくなって酒も適度に回ってくると、みんな口が軽くなってくる。
何人かは帰ったが、開発部のメンバーを中心に残った人達で、立って話すのも何だから、ということで会議室に酒宴を移した。

その場ではSES中心の企業なんて古い、新規は取れなくなっているし、これ以上うちの会社も大きくなれない、新事業やサービスの企画を出しても全く通らない、という言葉がいつも通りに並んだ。

僕もことある毎に彼らの愚痴を聞いている。
開発方のチーフとしていろんな不満がある一方、会社の先行き不透明さは理解しているつもりだ。
企画が通らないのも経営陣にしてみたら、予算的に厳しいというのはあるだろう。
どっちの言い分ももっともだ。

「中間管理職」がこんなに大変だなんて、本当に噂で聞いていた通りでびっくりしてしまう。

営業部の女性2人が「では私たちは片付けをしますので」と申し出て、ゴミを集めたり寿司桶を洗ったりしてくれた。男子陣も見習って欲しい。

で、あれ? なんか向こうで介抱されている人間がいるけど、大丈夫かな。
って本宮だったよ。
酒が弱いのに飲んで騒ぐから本当に手に負えない。
あれれ、僕と目が合った。何か睨まれてる気がするんですけど、あれれー。こっちに来てるなー。

「山岡さんはまたキャバクラですか?」と会議室の入り口で、据わった目をした本宮が言った。

「食事会だと思うけど……おい、大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫、これくらいで酔ったりしません」と酔っ払いの常套句が出た。
本当に見本にしたいくらいの常套句だわ、これ。
おいみんな、スマホで動画撮った方が良いぞ、これ。
コアシステム社史に刻まれる名言残すぞ、これ。

「で、あんた何様のつもり? コンサルタント様?」
と今度は中野さんに絡み出した。
上戸の中でもワースト3で困るのが泣き上戸と説教上戸、そして絡み上戸だ。

中野さんはあははは、と笑った。
本宮は『ストリートファイター』のリュウが波動拳を出しそうな格好をして中野さんと対峙している。その間に挟まれた僕はヨガテレポートを習得しておくべきだった、と天を仰いだ。

しかし僕は勇気を振り絞って本宮を諫めることにした。
このままでは中野さんの身に危険が!

「まあまあまあ」と言いながら僕は立ち上がった。
「なんだ、その、うん。冷静に、落ち着いて、どうどうどう」

「落ち着け、だと……?」

あれ、やばい予感……。すっごい睨まれてる。
視線が針のようにいろんな所を刺すよ?

「……近藤さん、いつもいつもいつも、クライアントの要望を出来もしないのに出来るとか安請け合いして私たちメンバーの仕事増やしてくれちゃって……残業続きでみんな困ってるの、知ってるのか? って話ですよ……」

「えっ」

そうなの? そうだったの!? 初耳なんですけど。

「知らなかったです……」と僕は正直に告げた。

「新規事業を始めるとかコンサル頼むとかじゃなくて、人員が足りなくてひぃひぃ言ってんだから、その金でこっちに人回してくださいよ! えっ、どうなのそこ!? 近藤!!」

「は、はいっ!」

「まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す!!」

その瞬間、本宮が僕の視界から消えた!
そして下からえぐるようなアッパーカットが僕のあごに直撃し、確実に10センチは宙を舞った。

「ぐはっ! 昇龍拳か……!」

僕の体は後ろの中野さんの所まで飛び、中野さんと坂石が何とか僕の体を支えてくれた。

本宮!! と悲鳴に似た声で片付けから戻ってきた女性社員2人がファイティングポーズを取る本宮の前に立ちはだかり、そのお陰でなんとか僕は死なずに済んだようだった。

本宮のファイトを止められるのは友情パワーだけですよ。いつも感謝です。

「大丈夫ですかー、近藤さん」
と開発メンバーたちが心配そうに聞いてくれた。
本宮は女性メンバーたちが会議室の外に連れ出していた。

「いててて……大丈夫大丈夫、ちょっと頭がクラクラするけど……」

「やれやれ、またやっちゃったかー」と坂石が呆れた声で言った。

僕の顔を心配そうに覗き込む中野さん。
まあ、大丈夫です。たまにあるんでと言って自分で立ち上がった。
いててて。あー、今日のは滅殺豪昇龍クラスだったかも。あご痛いや。

そのとき奥のPCからふふふ、という声が漏れた。
お前、まだオンラインだったのか、前田!?

小野正博のワンポイントアドバイス⑩

この物語はフィクションですが、僕も刺身や寿司が大好きで、寿司屋にはほぼ週次で行きます。特別なイベントなど必要ありません。
ただそこに寿司があるから行くのです(笑)。

さて、SaaS型アプリケーション企画のプロジェクトはキックオフが済み、懇親会が行われたわけですが、キャラ紹介的な人間模様はともかく、コアシステムの社員達もそれぞれに会社・事業・上司や自分のことをよく考えていることが分かります。
これは当然のことなのですが、誰もが(たとえ自分の立場でしか捉えられなくても)様々なことを「考えながら」働いているわけです。

ただ実にもったいないことに、その考えていることは、考えている人自身の頭の中だけに、あるいはすぐ隣にいる人としか共有できていないわけです。
つまり、考えていること自体が周囲には全く伝わっていない状態です。
「上司(部下)が何を考えているのか分からない」
「どうしてやるのか(やらないのか)が分からない」

本来あまりに簡単なはずの「会話をする」というプロセスがないままに、プロジェクトが進んでいくと、それが原因で失敗することがあります。
前回、
「あなたは社内の誰かを、どこかの部署をお客さん扱いしていませんか?」
と書きました。
これは顔色を伺いながら仕事をしなさいということではありません。
役職・役割の違いがあるのは当然ですが、メンバーそれぞれが、プロジェクト成功の目的のために協力し合い、話し合い、自分なりに考えることを決して放棄せずに取り組んでいくことが必要です。

既に中野には見えてきているようですが、山岡や近藤の口から語られなかった社内の状況や、既存のパッケージソフトであるグループ・オンの現状、社員の言動から汲み取ることができる課題の数々について、次回以降どのように中野がそして近藤が取り組んでいくのか。
今後の展開にどうぞご期待ください。

第27話「定例会議に臨む」に続く

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