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第25話 ふと、メンバーの考えを知る

新規事業開発物語 〜中小企業のためのコンサルタント活用術

新規事業がうまく行くように乾杯!と、互いをよく知り、今後の円滑なコミュニケーションを築くことを主な目的とする懇親会だか、お酒が入るといろいろな本音が出てくるのだ。
(物語概要・登場人物の紹介はこちら)


僕は中野さんに近づき、メンバーを紹介します、と言った。
よろしくお願いします、と中野さんは軽く一礼をした。

えっと、我がアシスタントの本宮は……
って女性グループに混じって何かぐだぐだとくだを巻いてる!! 
面倒だな……酒が入ると時々ああなるんだけど……嫌な予感がする。

放っておいてメンバー紹介だ!!

すでに名刺交換を終えている役員とメンバー以外を引き合わせないと。

僕はまず開発部の連中を適当に捕まえ紹介した。
ああどうも、だとか、どもー、だとか、なんとも気がない挨拶だ。
それでもこれは比較的はきはきと話す方で、1人で突っ立っているメンバーの2人は、ええ、だとか、はあ、だとか言って、気まずそうにしている。
まあ分かる、その気持ち。
初めて会う人と話すのはオレも苦手だったしな! 
でも立場的にそういうわけにはいかんのだよ!

「中野さん、こちら同じく開発部の坂石です。僕が手を離せないときは、色々と彼にやってもらっています。次期チーフです」

「何言ってるんですか。近藤さんがいなくなったら我が開発部も終わりですよ」

ははは、ありがとう坂石。本当にそうであったらいいよねー。

営業部の中里が同期の坂石を見つけ、声をかけてきた。
営業は名刺を既に取り出していて、営業の中里です、としっかり中野さんに先に挨拶をした。
こういうの、うちのメンバーにも見習わせたい、とつくづく思う。
社外の方がいらっしゃったら、まずは挨拶だろ?

「グループ・オンの調子、最近はいかがですか?」
と中野さんが中里に尋ねた。

中里は人なつっこい笑顔を浮かべて、ううん、そうですねえ、と言った。
髪型はいまどきの短いもので、横を刈り上げるようにして短く揃え、その上はやや長めで整えて、ツーブロックにしていた。
僕も髪型には少しこだわる方で、彼のように横を刈り上げて、全体的に短く揃えている。
彼は確か、30の僕と同じくらいの年だったはずだ。

「昨年末くらいからでしょうか……。それまで堅調に来ていた新規の導入数が、少しずつですが減ってきています。
もちろん毎月ばらつきはありますが、感覚的には3割以上落ちているかな、と。
保守契約の解除も目立つようになってきていますし、ソフト自体は良い意味で枯れてきていて安定しているのですが……」

僕はその話を聞いて、沢田さんから売り上げは上り調子だったのが3期目で落ち着いた、と耳にしたを思い出した。
そうか、昨年末から悪かったのか。

中野さんは、なるほどなるほど、と強く頷きながら中里の話に耳を傾けていた。
何か得るものがあったのだろうか?

「うちもようやく、ですね」と隣にいた坂石が言った。
「何度も『これからはSaaSだ』って言ってたのに。ねえ、近藤さん?」

えっと、そうだっけ? 色々と手一杯で覚えていない。
僕はそうそう、前からね、そうそう、とお茶を濁して作り笑いをした。
中野さんはやはりうんうん頷きながら坂石の愚痴を聞いている。

「……もうね、SI(システムインテグレーション)も旧来型の受託開発じゃダメだし、それだけじゃ先がないんですよ、本当に。
うちの会社で新しい取り組みができないようじゃ、僕もそろそろ転職した方が良いかなって思っているんですけどね、
この不景気でしょ? 周り見てもほとんど契約社員だし、もう少し経験詰まないと厳しいですよね」

僕は正直、驚いた。
坂石が、SI業界やうちの会社のことをちゃんと考えていることを初めて知ったのだ。
でも僕は彼のように、ここがダメなら別の場所だ、とは考えない。
30にして若白髪が出てきたけど、僕もいわゆる「中間管理職」ってやつだ。
そりゃ気苦労も多いさ!
ま、いつか僕だって会社を興したいなあ、なんて思ってたりはするけどね!

「えー、宴もたけなわですが、いったんここで締めとさせて頂きます」
とまたまた広末さんが声がけした。

「残った鮨はもったいないから、食べちゃってください。持って帰っても良いけど、早めに食べるようにね。我々はここで失礼します、どうも。近藤君、あとはよろしく。中野さん、今後ともよろしくお願いします」

広末さんは軽く一礼をして、山岡さん、沢田さんと共にエレベーターへと向かった。
これから仕事先の人と食事会だと聞いている。

第26話「本音を知るは痛みを伴う」に続く

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