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第22話 プロジェクトキックオフ(中編)

新規事業開発物語 〜中小企業のためのコンサルタント活用術

ゴールや問題意識の共有化だけでなく、プロジェクトメンバーお互いを知る機会でもあるキックオフミーティング。
はたしてプロジェクトリーダー近藤の思い通りに進むのか!(物語概要・登場人物の紹介はこちら)


「では続きまして代表の山岡からの挨拶となります」

今日は黒縁のメガネをかけた山岡さんが少し充血した目をして、億劫な感じで立ち上がった。

「はい、山岡です。うちの会社も四期目、時流に沿った新製品を出さなくてはならない。ということでSaaS型のアプリケーションを開発することになった。詳しくは近藤君が説明した通りだ。何か質問があったら近藤君に聞くように」

山岡さんは短く挨拶を終え、キャスター付きの、メッシュ地のイスに座った。
もっと具体的に何か話すべきだと思うのだが、もちろん社長にそんなことを言う人はいない。
言っても無駄だと分かっているからだ。

で、さっきから気になっているのだけど、隣の本宮が僕に十分聞こえる声でぶつぶつ不満をつぶやいている。
山岡さん、奥さんと子供もいるのにどうせまた女遊びでもしてるんでしょ、眠そうな顔して、という声が耳に入ってきた。

「しー! 声が大きい!」

と、思わず大きな声が出て、場のみんなが一瞬凍り付いた。
なんでもありません、てへへ、となんとかその場を取り繕った。

本宮はじっと僕を睨んでいる。視線の当たる左頬が痛い。
部屋全体を見ているはずのPCのスピーカーからふふふ、と前田の笑い声がディレイで聞こえた。お前は黙ってろ。

「……それでは、コンサルタントの中野様、よろしくお願いいたします」

はい、と言って中野さんはにこやかに、軽やかに立ち上がった。

「元気ですかー!!」

また場が凍り付いた。
広末さんだけがはっはっは、と腹を抱えて笑っていた。
僕はこの人の脳構造がいったいどうなっているのか知りたい、とずっと思っている。

中野さんは僕から依頼を受けてここにいること、そして新サービスの開発に至る諸々の経緯と、具体的にどのように人的・金銭的リソースを割くべきか、企画案提出の期日など、簡単に説明した。

本宮は、コンサルタントなんて勝手に雇っちゃって、何考えてんの山岡さんは、と腕を組んで、まだぶつぶつつぶやいている。
僕の感覚的にはとても派手な色の頭を小突いてやろうかと思ったけど、パワハラ・セクハラ・体罰の3コンボで訴えられそうなので止める。
この子はその辺の意識がかなり高いのだ。外国育ちなので。

「中野様、ありがとうございました。あっ、順序が逆になってすみません。弊社の役員をご紹介いたします。開発部責任者の沢田取締役です。よろしくお願いします」

僕は少し慌てながら、沢田さんの方を見て促した。

「どうも沢田です。元々営業畑なんだけども、今は技術方やってます。皆さん、せいぜい頑張ってください」

そう言い放って、どさ、っとイスに腰をかけた。そして神経質そうに、さっと銀縁の細いメガネを正した。

「あ、ありがとうございました……」

僕、この人苦手なんだよな……。どうしてこう、いつも攻撃的なんだろうか?
前の会社のときからそういう傾向があったけど、最近は特にそうだ。
沢田さんと本宮、姻戚二人で僕に不満があるのか?
今考えても仕方ない。放っておいて次に行こう。

「では営業部責任者の広末取締役、お願いします」

広末さんは少し体格がごついが、いつも人なつっこい笑顔をほんのり振りまいている。
柔道をやっていたそうだ。オールバックの髪をしていて、なかなかのイケメンである。
いつも僕らに、頑張ってるか、それいいね、という感じでかわいがってくれている。
コアシステムの良心だ。

「はい、どうも、営業部門を見ている広末です。中野さん、このプラン面白いですね。なかなかどうして、感心しきりです」

「ありがとうございます」と中野さんは広末さんの方を向き、軽く一礼した。

「何かあったら遠慮なく声をかけてください」

「ありがとうございます」

いい人だ、広末さん。

第23話「プロジェクトキックオフ(後編)」に続く

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