コンサルタントとのアポイントメント設定で、社長の山岡が出した指定に困惑する近藤。それに対する中野の思惑は?
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近藤は山岡からのメールを受け取って固まっていた。
コンサルタントからアポイントメントの候補日を複数挙げておいて欲しいと頼まれた、とメールに書いたのに、山岡はたった1日しか指定していなかったからである。
鈍感な近藤も、もしかすると山岡はあまり乗り気でないのでは、と考えてみた。
一生懸命意を尽くして説明したはずなのだが……。
しかし、頭ごなしに断らない、ということは、本当に忙しいのかも知れない。
多分そうだ、きっとそうだ、いやそうに違いない!
都合の悪いことは考えないようにして、成り行き任せにする人々と同様、近藤はそれ以上追求しないことにした。
それでも近藤は中野さんに申し訳ないな……とやや恐縮して、メールで報告するのもいささか気が引けるので、お詫びも兼ねて携帯に電話することにした。
「もしもし、中野様の携帯でございますか?」
「はい、中野です。近藤さんですね? 何かご用でしょうか?」
「あ、いえ、すみません……その……」
「提案書の件ですか? 良いものになりそうですよ。もうしばらくお待ちください、鋭意作成中です!」
「え、いや、そうではなく……実は、アポイントメントの件ですが、代表が水曜日の14時から1時間だけ、と……。
すみません、代表も多忙のようで、私からも強く言ったのですが」
近藤は嘘をついた。どうせ強く言ったところで聞く耳を持たない。
結果は同じなのだ。
「かしこまりました。こちらで調整しましょう。しばらくお待ちください」
中野は受話器をふさいだようだった。しかし、声が近藤の耳に漏れ聞こえた。
来週の水曜はN○Cの社長とアポがあったよね?その後は東○? そうか、経○連の会合があるんだった。
まあいい、一報入れといて。うん? そうそう。仕方ない、予定をずらしてもらおう。
え? ああ、まあ大丈夫、いつものようにお土産持っていくから。
「近藤さん、問題ありません。では来週水曜日、14時からということで」
近藤は戦慄していた。目に見えて受話器を持つ手が震えた。
「す、すみません……では、そのようにお願いいたします、本当にすみませんでした!」
近藤は思わず急いで電話を切った。
額に滲む冷や汗を拭きながら、ふう、とため息をついた。
中野というのはどういう人間なのだ? と両腕を組んで考え込んだ。
近藤は真に受けやすいタイプなのだ。
一方、電話の向こう側では一芝居打った中野が、なるほど、なかなかワンマンな方でいらっしゃる、とほくそ笑んでいた。
それも典型的なワンマンだ。
恐らく近藤さんを慮って、彼の顔を潰さないように取った手段だな、と中野は踏んだ。
そして直に会って断りを入れる、と。
そうであれば、話は早い。いつものパターンで攻めるのが良い。
中野は命よりも大事なMacBookPro17インチモデルのリンゴマークをよしよし、と撫でながら、もしスティーブが生きていたらなんと言っただろうな……と思いを巡らせいていた。
もちろん激昂し、ファッ○ンブルシットと罵っていただろうが。
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