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第13話 倒れるときは前のめり

これまでのあらすじ
近藤は中小のICT企業で働くエンジニアである。社長の山岡より、SaaS型モデルの新規事業を興すように依頼されたが、全く当て所のない近藤はどうしたものかと途方に暮れてしまう。たまたま目にしたネット記事でSaaS型モデル導入の成功事例として取り上げられていたコンサルタントの中野のことを知り、コンサルティングに賭けてみることに。



コンサルタント中野の話にコンサルティングの意味について納得し、費用面も目星がついた近藤は、早速社長の山岡に話を持っていこうとするが……。
(物語概要・登場人物の紹介はこちら)


近藤はいても立ってもいられなくなってきた。
思いついたら即実行がモットーである。善は急げなのである。

「中野さん、ありがとうございます! これで肩の荷が下りました。
代表も絶対に納得してくれると思います。このあとすぐに山岡に掛け合ってきます!」

満面の笑みを浮かべ、腰を上げようとした近藤を中野は制した。

「少々お待ちください、近藤さん」

「いや、待てません! もう行っちゃうぞ!」

にこやかに立ち上がる近藤を、今度は目だけ笑っていない例の微笑で中野は近藤の目を捉えた。
近藤はゾクゾクと激しい悪寒を覚えた。
不吉な気配を感じ、その場にへたり込むようにイスに着いた。

「えっ……と、何か問題でも?」

「はい。まずはこちらで提案書を作らせていただきます。それに目通しをお願いします。今、お話しした内容を整理した概略のものです。
その上で実際の進め方、予算も含め、改めてご確認ください」

近藤はなんだそんなことか、とにっこり微笑み、3回頷いた。

「では早速代表に相談したいので、受け取ったらすぐに報告に行きますね!」

「おいこら待て」と中野はにこやかに言った。

近藤は笑いながら恫喝する人間に初めて接した。
表情と言葉の乖離に一瞬戸惑いながら、どっちの意味内容を掴めば良いのかわからず、とりあえず愛想笑いを返した。

中野はそれで良いのだ、という風にコクリと首を縦に振った。
それはあたかも『イングロリアス・バスターズ』でクリストフ・ヴァルツが演じるナチス将校が、スパイ女性に有無を言わさず尋問するときのようだった。

「近藤さん、冷静に。御社代表に私が直接お目にかかり、話をさせていただきたく存じます」

近藤は首を傾げた。
ちょうど犬が主人の話を理解できず、首をひねる様に似ていた。
中野が今度、ドッグフードでも持ってこようかな、と思うほどであった。

「よろしいでしょうか、ここから先は少しデリケートでセンシティブな話になります。万全のスタートを切るためには、用意周到でなければならないのです」

「はあ」と近藤は良くわからず声を漏らした。良くわからないことだらけだ。

「私では社長を説得するには力不足、だと」

「いえいえ、そんなことはございません」と中野は嘘をついた。

中野には分かっていた。
意気揚々と近藤が山岡のもとに行っても、取り付く島もなく、すげなく断られるだけだと。
中小の経営者はワンマンが多く、一担当者がコンサルタントを依頼して来ること自体に、問題が含まれている。
上から指示があり、担当が困ってコンサルティングを依頼する、再度上に掛け合う、そして説得できずに頓挫する。非常によくあるパターンなのである。

「御社の代表にご納得いただき、全て合意の上でスタートする必要があるのです。そうでないと、それは話が違う、こんなつもりではなかった、などといった問題が後から出てきます。
それを未然に防ぐためにも、私自身にお話をさせてください。御社代表のお考えも、ぜひ知っておく必要があります」

「そうですか、ではそうなさってください」

近藤は中野の真意はわからなかったが、そこまで言うのなら、ということで納得した。

「では後ほど近藤さんに提案書をメールにて送付させていただきます。3営業日を目処にお待ちください」

「今日は木曜、ということは来週頭でしょうか?」

「そうですね、早急に取りかかります。近藤さんには、アポイントメントの調整をお願いいたします」

「日程は?」

「ご都合よろしい日時を複数ご提示ください。調整いたします」

「わかりました」

「ではこちらからは以上となります。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

近藤は中野に深々と頭を下げた。とりあえず、先が見えた。
近藤はまだ中野がいるにもかかわらず、はあ、と深い安堵のため息を漏らした。
中野はちょっと早いんじゃないのかな、と思ったが、大して気に留めなかった。

第14話 「社長の本音」に続く

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