費用の話で困惑する近藤に、コンサルタントの役割を話し始めた中野。はたしてコンサルタントとはどういう存在なのか?(物語概要・登場人物の紹介はこちら)
「近藤さん、ご心配なさらず。そもそも報酬、予算、そういうお金にまつわることはとても大事ですし、それについて話すことこそがビジネスです。
では私の方から提案させて頂きます。よろしいでしょうか?」
中野は、何かに困っている人が放つあの沈鬱なオーラにあまり触れないように気をつけながら、近藤の顔を見た。
「困っている」という顔をしていた。
わかりやすい人だな、と中野はほとんど感心しながらスマイルをした。
目を緩め、口角を上げる。
一方の近藤は、顔は笑っていても目が笑っていない中野の奥を見て思わずつぶやいた。獅子の目だ!
「Webの紹介記事をお読みになってくださっているので改めて言うことではないのですが、私もこの業界で長くやっています。当然、携わった案件はかなりの数になります。
このことが意味することが何か、おわかりになるでしょうか?」
近藤は中野にそう振られて、どぎまぎした。
「えっ……と……経験豊富でいらっしゃる、ということですね」
中野の意図が良くわからないが、ともかく返答をした。
「まあ、そうですね。ということはどういうことか?当たり前のことですが、これはしっかりと認識なさってください。
このプロジェクトのリーダーは近藤さんであり、私はコンサルタントとして、方向性を指南し、意思決定のお手伝いをします。
私が企画を出し、私が指揮をし、製品を開発する。これでは単に開発業務全体を外部に発注しただけです。
近藤さんが私の提案するプランを吟味し、実際にどうするかを決定するのです。よろしいでしょうか?」
近藤はこくり、と頷いた。問題ない。
「では、これを大航海時代の航海に例えましょう。
近藤さんは不慣れな海を進む船長、私は地形を知り尽くし、どこに岩礁があるとか、どこが風が強いとかを知っている経験豊富な航海士です。
あるいは六分儀を用いて、船の場所を割り出します。
船が座礁、難破してしまえば一巻の終わりです。
それを避けるためにも、航海士は絶対に必要です。おわかりですね?」
「心強いですね」と近藤は頷きながら言った。
「だからといって、航海士は船長ではありません。
どんなに優れた航海士でも、船長を差し置いてこっちに行け、あっちに行け、よし飯だ、なんてことは言いません。
全ては助言であり、諫言です。ご理解いただけますか?」
「はい、大丈夫です」と近藤は言いながら、
どうしてこんな回りくどい話を中野がするのか、少々訝しがった。
「ご安心を。これからが本題です」と中野は言った。
心を簡単に見透かされた近藤は、なんでこの人は考えていることがわかるのだ?と怖くなって、驚きの目で中野を見た。
子供のようにわかりやすい人だ、と中野はある種の親しみを覚えて話を続ける。
「船長は航海士の助言をもとに航海を進めます。
岩礁が多い場所を避け、嵐を避け、あるいは海賊の多い場所も避けます。
それが最短ルートです。海図上の最短距離が最短ではありません。
最短を考える船長は海図上の最短ルートを突き進み、座礁したり難破したりする。そうですね?」
「そうです。間違いありません」
「話をこのプロジェクトに戻します。
私は航海士のように船長である近藤さんに助言を差し出し、近藤さんのプロジェクトが無事に遂行するように導きます。経験を活かし、何をポイントとすべきかのガイドラインを立てます。
そしてここが一番大事なのですが……おや、雨が強くなってきましたね」
中野は窓の外を見た。雨が強くガラス窓を叩いている。
近藤はややじらされながら、そうですね、と生返事をした。
中野は外を見ながら、雨は良い、くすんだ心を洗い流してくれる、とつぶやいた。
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