コンサルティングの費用とはどういうものなのか?中野の答えとは?
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「類似案件の実績では、3ヶ月間で300~450万円程度でした」
近藤は中野の回答を聞きながら、小刻みに手が震えているのがわかった。
(最低でも考えていた程度、下手したら倍の費用は必要なんだ……。)
どちらかというと、理系の開発者にありがちなように、少しふてぶてしいくらいに思われているところがなくもないが、こういうことに関しては実に小心者なのである。
なにせ費用の交渉など、近藤はやったことがない。
そしてやったことがないことに対しては、めっぽう弱い。
中野はそんな近藤を見ながら、色々と考えを重ねていた。
「費用のことですが、皆さん、その点をよく誤解していらっしゃる」
「え、誤解? とおっしゃいますと……」
「コンサルティングサービスには高額な費用がかかる、ということです。もちろん、そのような案件もないことはないですが、サービスが本物ならば、実はとても効率的な極めて合理的な費用なのです」
「はあ……」
近藤は良く意味がわからず、ただ頷くだけだった。
「失敗できない」と中野は言った。
「コンサルタントは、失敗という最悪のリスクを限りなく減らす仕事です。多くの方がその辺も誤解していらっしゃる。そう、多くの方が……うん……」
中野はじっと自分の顔を見つめる近藤の視線を感じて、話を元に戻した。
「コンサルタントは誤解との戦い、ということです。なに、忘れてください」
近藤はどう反応したら良いかわからず、そのまま黙っていることにした。
ところが、近藤は多くのことを実際に誤解していた。
中野はその点をしっかりと看破していた。
多くの企業があまりにも同じ誤解を抱いているものだから、中野の苦労は、しばしばその誤解を解くことに向かっていた。
中小企業の社長や企画の担当には、大きく分けて3つの誤解が常に付きまとっている。
近藤も例外ではなかった。
1つ目は、コンサルティングには高額な費用がかかるということ。
2つ目は、プロジェクト予算が適切に確保できていないと思っていること。
そして3つ目は、経営層が目に見えない費用(特に社内コスト)を承諾しておきながら、全体予算の見積違いをしていることである。
肩を丸め、自信なさそうに目を逸らして語る近藤の振る舞いを見て、中野は何とかしなくては、といつもの義侠心に駆り立てられた。
やはり今夜は焼き肉にするべきかもしれない。
コンサルタントに依頼することを「雇う」と表現する人がよくいます。
ここで言うところの「雇う」とは、実にオーナー社長的な発想で、「金を払って専門家にやってもらえばいいじゃないか」という考え方の表れだろうと僕は考えます。
綺麗事を抜きにして、プロのコンサルタントとは、クライアントから費用をいただいた上で、コンサルティングサービスを提供しているのは事実です。
ただし、クライアント側がこの言葉上の「雇っているんだ」という意識で接していたのでは上手く活用できません。
実に平易な表現ですが、「目的達成のためのビジネスパートナーとして協力し合うこと」
この意識が首尾一貫して互いに持てる関係性こそが一番大切です。
信念を持って取り組むコンサルタントほど、クライアントの事業や当該プロジェクトの関連事項以外に、経営理念、経営者・担当者の人柄などを含めた思いの部分を重要視します。
それぞれの専門性・資産を持ち寄り、心を通わせて、真に一体になれれば、もう事業は成功しているのです。
第11話 「コンサルタントは航海士である」に続く
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