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第6話 社長の意図と自分の限界

第6話 社長の意図と自分の限界

コンサルタント中野の話に身を乗り出す近藤。彼の話はまさに山岡社長が言っていたSaaSの話だったのだ。
(物語概要・登場人物の紹介はこちら)


「あの案件ですが、かいつまんでお話しすると……」

それは次のような次第だった。

中野のクライアントの企業は、社内のスケジュール管理や、交通費精算などを行う「グループウェア」と呼ばれるパッケージソフトを開発、販売していたソフトハウス。
累計の販売実績はまずまずであったが、最近、新規の導入は確実に落ちてきていた。
それは多くの業務パッケージソフトにつきものの、次のようなデメリットが要因であった。

1.グループウェアの導入には、専用のサーバを用意する必要があり、一定額以上の初期費用が掛かる。

2.導入後は全社で日常的に使い続けることになるため、バグ対応やデータ保全などを行う保守契約が必要となる。

ユーザー企業は、グループウェアの導入検討に際して、機能だけでなく、これらの初期費用と保守費用を含めた検討を行う。
従業員規模が少ない企業、情報システム部門がない企業にとっては、サーバ導入や保守契約のハードルが高く、なかなか成約に結びつかない。

このデメリットに対して、有効なソリューションがSaaS(注)だった。

幸いこのグループウェアは、Webブラウザから利用するタイプであり、適切なセキュリティ対策を施しさえすれば、インターネット経由でアクセスさせることは容易であった。

そのメリットは明快だ。
グループウェア用のサーバをユーザー企業が用意する必要はなく、個別の保守契約(しかもオンサイト=訪問型)も不要となる。
社内のユーザー(社員)数分の利用料を支払えば、グループウェアが簡単に導入できるのだ。
しかもトータルコストはかなり抑えられる。

中野が紹介記事のクライアント企業に提言したのは、まさにこのSaaS型のソフトウェア開発だった。
既存のパッケージソフトを基にすることで、できるだけ早く、安価に作り上げるための支援を行ったのだ。

「以上が概要です。何か質問はございませんか?」

近藤は、中野が理路整然と話を進めていくのを聞くと、
社長の山岡がSaaS型のソリューションを急に必要としだしたことに合点がいった気がした。
確かに時代はSaaSへと動いている。
頭では分かってはいたことだが、改めて中野の口から聞くと、むしろSaaS以外にないのではないか、とも思えてくる。

「中野さんはそのグループウェアの開発の指揮にも立たれたのですよね。
今、弊社が頭を悩ませているのは、SaaSと言っても、
一体どのようなサービスを作れば良いのか、その所なんです。
規模感から言っても、既存の大手に敵うわけもないので、
当然ニッチの部分を突いていくことになると思います。
そこをずっと考えているのですが……」

近藤は両肘を机の上に載せて、やや前のめりの格好で中野に尋ねた。
中野は大きく頷きながら近藤の話に耳を傾けている。

自分一人の力では無理だ。近藤は中野がやってくるまでの3日間で、何とかスケジュールをやりくりして時間を割いて、何か良いサービスはないものかと、色々とネットで検索したり、本を読んだりしながら考えてみた結論だ。
良いアイディアだと思っても、実現不可能な規模のものだったり、既にスタンダードと呼ばれるサービスが存在していたりした。

これじゃ時間の浪費だ。近藤は痛感した。

この3日間、1日につき、3~4時間は時間を掛けただろう。
3日で約10時間。1週間でオフの日も合わせると20時間以上は、このSaaSの新サービスについて考えることになる。
自分を社内コスト換算で、1時間当たり5,000円で考えたとして、1週間で約10万円は必要になる計算だ。

構想段階では時間だけが空虚に流れ、そして何も生み出さない。
生み出したとしても、良いものが出来るかどうか分からない。
そう考えると、とてもリスキーで、とんでもない高コストだ。
だったら最初からその道のプロに依頼した方がどんなに良いだろうか。

近藤がそのように考えるのは当然の成り行きだった。

「中野さん、一体どのようなサービスを作れば良いか。そういうアイディアの提供もしていただけるのでしょうか」

近藤は、単刀直入にそう中野に尋ねた。
中野は近藤の目を見て、口を開いた。

第7話 「思い付きの企画ならいくらでも」に続く

用語解説(注:SaaS(サース)とは、ソフトウェアの機能をクライアントPCにインストールするのではなく、ネットワーク経由でサービスとして配布し、利用させるソフトウェアの提供形態のこと。ASPとほぼ同義。例:Salesforce.com Google Workspace など)


第6話 社長の意図と自分の限界

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