プラグインコンサルティングの中野に会ってみようと決めた近藤。実際に来社した彼の印象は?
(物語概要・登場人物の紹介はこちら)
・中野氏来訪
近藤は早速、中野とアポイントメントを取ることにした。
本命は彼なのだ。もはや迷っている時間はない。
メール文末に記された電話番号にコールした。
「はい、中野です」
若い。近藤が中野の声から受けた第一印象はそれだった。
ネット記事の写真とプロフィールで同世代であることは知っていたが、それにしても若い、という感じがした。
そして相手との距離感に注意している人がいつもそうであるように、その声には静かな落ち着きがあった。
近藤は簡単に自己紹介をして、面談をしたいのだが、と切り出した。
自分から中野の元に行くつもりであったが、彼はそれには及ばない、と言った。
「私からお伺いします。明日以降、直近のご都合をお聞かせください」
近藤はカレンダーを見て、空いている日時をいくつか提示した。
木曜の午後に面談することになった。3日後である。
用意するものはあるか、と中野に尋ねると、特に必要なものはない、という答えであった。
近藤は拍子抜けした。財務諸表だとか、売上データだとか、そういうものを要求されるのが普通だと思っていたからだ。
近藤は電話を切ると、ある種の手応えのようなものを感じ、
よし、と独りごちた。
たぶん、大丈夫。しっかり話を聞いてもらおう。
木曜日になった。その日は朝から雨が降っていて、天気予報によればしばらく雨が続くという。
近藤は熱いコーヒーを口にしながら外を眺めていた。
雨がオフィスのガラスを叩き、電信柱の電線を揺らしていた。
風も出てきたようだ。
(今日は風が騒がしいな……。)
14時5分前、時間だ。コーヒーカップをデスクに置くと、
「近藤さん、プラグインコンサルティングの中野様がお見えです」
とスタッフの一人に声をかけられた。
近藤はよし、と言って席を立った。
オフィスの入り口に向かうと、黒の細身のスーツに身を包み、濡れた黒い折りたたみ傘を持つ男と目が合った。
男は軽く会釈をした。彼が中野さんだろう。
右手には名刺入れを持っている。
「中野さんでしょうか?」
「はじめまして。プラグインコンサルティングの中野です」
近藤も用意していた名刺を差し出し、会釈をした。
「お足元の悪い中、ありがとうございます。こちらの会議室にどうぞ」
近藤が先導して会議室に入り、中野を奥に通して、6人ほどが座れるデスクの中央に向かい合って着いた。
部屋にはホワイトボードと観葉植物がなんとも無作法に置いてある。
中野はおもむろに、17インチのMacBook Proを取り出した。
平静を装い顔には出さなかったが、近藤はなんでこんなでかいものを持ち歩いているのかと不思議に思った。
中野は涼しい顔で長く伸ばした前髪をゆっくりとかき上げ、にっこりと笑った。しかし、その目の奥は笑っていなかった。
容易に心を開かない人なのかな……。
そんな考えが一瞬、近藤の頭をよぎった。
しかし近藤は、この世には普通の杓子定規では測れない人間が多くいることも知っている。
苦手だと思っていても、長く付き合う中で分かり合える人間もいれば、第一印象は最高なのに、実はろくでもないヤツだった、という経験も少なくない。
中野は一見クールで近寄りがたい雰囲気がある。
でもそういう人間が、誰かと何かを成し遂げているのである。
近藤は、いつも初対面の人間と接するときのように、人間観察は保留し、しばらく様子見を決め込んだ。
「繰り返しになりますが、当社の紹介記事を読んでいただき、ありがとうございます」
と中野は口を開いた。
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