とりあえず幾つかのコンサルタントに少し相談を、と考えた近藤。そこに待ち受けていた思いもよらぬ返事とは……。
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「コンサルタントと相談して新規事業をやりましょう、なんて持ちかけても、山岡さんは許可出さないだろうな……」
近藤はオフィスでコーヒーを片手に、ぼんやりそんなことを考えていた。
デスクチェアの背もたれがキシキシと音を立てた。
雑然としたデスクの上には観賞用の小さなサボテンと、パリ旅行の時に撮ったエッフェル塔の写真が飾ってある。
ときどきそれを眺めながら異国の地を夢想するのが癖なのだ。
モンパルナス駅の近くにあるレストランで食べたフランス料理は美味しかったな……。
近藤はしばらく妄想に耽ったあと現実に戻ってきて、今度はディスプレイに映った例のプロモーション記事を眺めながら、トラックパッドのジェスチャーで、記事をざっと上下にスクロールした。
そしてコンサルタントの顔写真にふと目が留まり、その顔をまじまじと見た。
写真には「中野 博氏」と書かれてある。
クリエイティブ・コンサルタント。
意味は良く分からないが、いくつも事業を成功に導いてきたらしい。
良くも悪くもワンマンタイプの山岡に、そもそも外部の誰かと協力関係を築いて物事を進めていく、という発想はありそうもない。
近藤は「ほら、こんな成功事例もあるんですよ」と、この記事をプリントアウトして持っていこうとも思ったが、どうせ聞く耳を持たないだろうな、とすぐに思い直した。
いきなり持っていってもダメだろう。
まずは自分の中で、ある程度の感触を掴めるまでは黙って進めてみよう。
いちいち許可なんて取っていたら、前に進むものも進まなくなるのは、目に見えているし。
まずは問い合わせてみて、反応を見るだけでも悪くないだろう。
近藤はそう思うと、姿勢を正し、ディスプレイに向かった。
そして次のようなキーワードを組み合わせて検索をかけてみた。
「新事業 SaaS コンサルタント コンサルティング」
検索結果にずらっと並ぶ、「○○総研、○○コンサルティング」といった社名の数々。
こんなにあるのか、というのが近藤の正直な感想だった。
キーワードが絞り切れていないためか、大手企業の名前が多い。
アクセント・コンサルティング、富士山総研、等々……。
この業界を知らない近藤でも、名前くらいは聞いたことがある。
この辺は大手だから止めておこう。うちの規模じゃ、相談料も払えないよ。
近藤はざっと見渡して中堅規模のコンサルティング会社を適当にピックアップした。
Webサイトの作りが雑なところをまず除外し、分かりやすい所を選んだ。
「ハーツコンサルティング」と「フォックス総研」。
この2社と、中野博というコンサルタントが所属する、「プラグインコンサルティング」の3社に相談を持ちかけることにした。
近藤は各社の問い合わせフォームに相談内容をざっくりと書いて、送信した。
「あなたはすでに成功のスタートラインに立っています!」
ハーツコンサルティングからすぐに返信のメールが来た。
ほとんど具体的な相談もしていないのに、問い合わせただけで「成功のスタートライン」だって?
ちゃんちゃらおかしいよ。
つまり、「うちを選んで正解だよ」っていう意味なのか?
「絶対に儲けます」「元本保証です!」
なんてところが絶対に約束を守らないように、絶対成功なんて触れ込みを信用するわけがない。
勢いだけ良くて、その勢いに負けちゃう人が、こういう所に依頼しちゃうんだろうな……。
第4話 「コンサルタント会社に問い合わせてみたら(後編)」に続く
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