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第1話 独立しても「SES=人出し」から抜け出せない

独立しても「SES=人出し」から抜け出せない

順調に成長してきている会社のビジネスモデル。同時に抱える将来への課題とは?
(物語概要・登場人物の紹介はこちら)


「そろそろ独立時かな」

中堅システム会社で営業をしてきた山岡は、これ以上の出世競争にうんざりしていた。
おべっか、追従、ごますり、やっかみ。
狭い世界だからこそ、段々と窮屈に感じてくる。
大きすぎず、小さすぎずの自社での仕事にはすっかり馴染んでいたが、一方でそういう軋轢にいささか疲れてきたことは否めない。

山岡は営業畑一筋だ。
だが、これ以上の時間は空費でしかないという考えが頭から離れない。
子供も小学校に入学する。妻も起業を理解・応援してくれている。

そして山岡はついに独立し、会社を興すことを決める。もちろん目算はあった。

それまで懇意にしていたクライアントを引き継ぐ形で独立できそうだ。
また独立に際し、同じ不満を抱えていた営業部の同僚の沢田と広末の2人に声を掛けた。
また年は離れているが、気が合い、飲み仲間になっていた技術部の若手、近藤を引っ張ることにした。

会社の資本金はいきなり3000万円。
山岡の貯金と、役員として入ってもらった沢田と広末の2人の出資に加えて、国からの融資も得られ、初期の運転資金の目処が立った。
山岡は近藤も当初は役員にと考えていたが、近藤本人の希望もあり、正社員雇用することで折り合いを付けた。

独立を決意したとき、山岡の年齢は37歳。
営業の沢田と広末は、それぞれ38歳と35歳。
技術の近藤は27歳である。

社名は社会の中枢を担う、という決意を込めて「コアシステム株式会社」とした。

前職から円満な形でクライアントを引き継ぎ、初年度からそこそこ上手く回り出した。
2期目は新規受注も増え、増員に伴う売上も堅調に推移。
3期目には年商が倍に膨れあがり、会社も落ち着き始めた。

現在のコアシステム株式会社の社員構成は正社員が20名ほど、非正規20名と合わせて40名程度である。
内訳として、経営兼営業(3名)、営業(7名)、エンジニア(正社員10名、他20名)、事務・庶務(1名)となっている。

営業スタイルは、山岡が前職のクライアントを引き継いだことからも、常駐型のシステムエンジニアリングサービス(※SES)という、エンジニアがクライアント企業に常駐し、技術提供する契約形態がメインで、その他に請負契約でシステム開発を行っている。

受託開発よりも、SESがメインになっている中小システム会社は多い。

だが新規でシステム開発の提案を行い、まともにカットオーバーまで持ち込み、その後の保守契約(SES)を結ぶというのは、一見ごく普通のシステム会社の業務の流れと思われがちだが、実際はプロジェクト単位で赤字となりやすく、リスクがつきまとう。

そこで自社・他社開発を問わず、既に稼働中のシステムの保守要員としてエンジニアをクライアント企業へ送り込み、徐々に内部でその勢力を拡大させること、つまり、システムリプレイスや追加開発案件を優先的に受注することを目指してSES(=言葉は悪いがいわゆる「人出し・人工貸し」)の提案をするのだ。

SESは一度始めてしまえば、数字も読みやすく、受託開発メインよりも安定する傾向が高い。
しかし送り込めるエンジニアの人数とクライアントの社数によって年商がほぼ決まってしまう、付加価値による違いを出しづらいサービスであるため、
多くの中小システム会社が直面している経営課題が、この「人出しからの脱却」なのである。

第2話 「SaaSの新規事業を立ち上げよ」に続く


【用語解説】
※SESとは
System Engineering Service(システムエンジニアリングサービス)の略称で、IT業界における業務委託契約の一種です。SES企業に所属するエンジニアが、クライアント企業(顧客)のオフィスに常駐し、その企業のシステム開発や運用、保守などのプロジェクトにおいて技術者の労働力やスキルを提供するサービスのこと。


独立しても「SES=人出し」から抜け出せない

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