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第21話 プロジェクトキックオフ(前編)

新規事業開発物語 〜中小企業のためのコンサルタント活用術

【これまでのあらすじ】
近藤は東京の中小ICT企業「コアシステム株式会社」で働くエンジニアである。
社長の山岡よりSaaS型の新規事業を興すように依頼され、悪戦苦闘の末、ICT専門コンサルタントの中野と共に、新規の企画を練ることになり、いよいよプロジェクトが動き出す。(物語概要・登場人物の紹介はこちら)

いよいよプロジェクトが始動。
メンバー、役員、そしてコンサルタントの初顔合わせとなったキックオフミーティングは上手く行くのか……。


「僭越ながら、司会を担当させて頂くことになりました近藤です。本日はプラグインコンサルティングの中野様と、プロジェクトメンバーとの初顔合わせとなります」

僕は会議室に集まった2人のメンバー、(正確には人間1人とPC1台、理由はあとで話すけど)と3人の役員、そして中野さんの顔を見渡しながら言った。
こういう役回りは本当に苦手なんだが、仕方ない。
プロジェクトリーダーである僕の仕事と割り切っている。
手元の腕時計は5時半を回ったところだ。オフィスの外はまだ明るい。
西日が部屋に差し込んで部屋中を照らし、少し眩しいくらいだ。

キックオフミーティングがスタートした。
今後、どういう風にプロジェクトを進めていくのかがここで話し合われる。
プロジェクトのゴールや問題意識の共有化などが行われる。

……はずなのに!!

左隣に座ってる僕のアシスタント、本宮リエがぶつぶつさっきから何かをつぶやいている。
セミロングの明るめの髪をいじるのが癖で、いつも不満そうな顔をしている。

僕、なにか悪いことしたかな? と心配になる。
コンサルティングを依頼することを伝えたときから、不服そうな顔をしていた。
なんですかそれ、なんて言っちゃって。
初め見たときはかわいい子だな、なんて思った自分がバカだったよ。

いくら優しい僕でも怒るときは怒るぞ!

……と言いたいところだが、
我が社の役員である、開発部トップの沢田さん(40)の奥さん(31)の妹さん=本宮リエ(24)というばりばりのコネ入社だから、僕にそんなことを言える権限はない。
沢田さん、ニコニコ笑いながら「近藤君、厳しくやってくれ、よろしくな!」
なんて言ってたから厳しくやっていたのに、どんどん険悪になっていくなんてひどい。

鈍感な僕でも、あ、これまずいんだな、って分かるくらいの強い口調で
「かみさんの妹のこと、もう少しお手柔らかに」って言ってたものな。
顔は笑っているのにね。怖いよ。

会議室は、人数は問題ないのだが、少々手狭な感じなので、別室に配備してあった折りたたみ式の長方形のデスクを持ってきた。
会議室のテーブルと組み合わせてT字にし、山岡さん、沢田さん、広末さんがここで良いよ、ということで、役員トリオが折りたたみのデスクの席に着いた。

沢田さんが
「おいおい、近藤君、こんな所に上司を座らせるなんて出世が遅れるぞ」と言っていたが、意味が分からない。
そこに座ると言いだしたのは沢田さんの方だ。
この人、言っていることと思っていることが違うので、本当に困る。

会議室に元々あった6人掛けの広めのテーブル右隅に中野さんが席を取り、僕の目の前に座っている。
例のバカでかいMacBook Pro17インチを広げ、メモを取っている。

僕から見て左奥に役員トリオが三人陣取り、左に本宮、そして右には部屋全体を見渡すように、PCの画面に映った「ZEELE 01 SOUND ONLY SELECTED」のモノリスがいる。
これはうちの優秀なエンジニアのアバターだが、中身は色々と問題があって家から出ずにずっと引きこもっている。
今はSkype中継をしているのだ。
名前は前田という。
高校時代は名の知れたハッカーだという噂をうちの社員から聞いたが、真偽は不明。
ハッカーだろうがクラッカーだろうが、慢性的な人材不足なので、仕事さえ納期までにきちんとこなしてくれれば問題ない。
オンサイトだろうがオンラインだろうが、最低限の意思疎通が取れればよいのだ。

おーい、まえだー、聞こえているかー、と心の中でPCに向かって呼ぶ。

「……それでは以上がプロジェクトの概要となります。中野さんと企画案を一緒に頑張って練って行きましょうわっしょい!」

右腕を振り上げて盛り上げようとしたんだけど。
シーンと静まりかえる現場。
中野さんと奥の広末さんだけが苦笑していた。いいんだ、別に。

遅れて前田のふふふ、という声がPCのスピーカーから漏れた。
お前の笑いのツボ、分かんないよ。

第22話「プロジェクトキックオフ(中編)」に続く

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