いよいよ社長山岡とコンサルタント中野の面談当日。事前に送られてきた資料に驚く近藤。そして中野が案内された社長室のプレートに書かれていたものは……。
(物語概要・登場人物の紹介はこちら)
月曜日、コアシステムのオフィス。
皆、黙々とパソコンの画面に向かっている。
開発グループの人間はそこそこ多いのに、少し不気味なくらい静かだ。
部屋にはキーボードをカタカタと打つ音が響き渡っている。
近藤も前の会社ではその光景を異様なものと時折感じていたが、いまでは慣れきってしまって、特段、変わった様子はないな、くらいにしか思わなくなっていた。
近藤はいつものようにコーヒーを片手に仕事のメールを読んでいた。
11時を過ぎた頃、中野からのメールが飛び込んできた。
なになに、提案書をお送りいたします……ご査収願います……云々。
ううむ、早いな。
近藤は早速、ダブルクリックで添付ファイルを開いた。
近藤は素直に驚いた。驚きを越えて、感心してしまった。
木曜日に話した内容が理路整然と書かれてあった。
しかも近藤の意図した以上のことがそこには書かれていた。
舌足らずな説明で、ここまで意図をくみ取ってくれるとは……。
自分でも何が言いたいのか、何がしたいのか、良くわからずに相談していたのである。
そうか、自分が相談したかったのはこういうことなのか! と、自分が急に賢くなったかのように近藤には思えた。
近藤は中野のメールをもう一度読み返した。
そこには、代表には直接会って話をしたいので、それまでこの提案書を渡さないで欲しい、ということが書かれていた。
危ない危ない。近藤は胸をなで下ろした。
感動のあまり、すぐにでも山岡に転送するつもりだったのだ。
「確かにこれだったらオレが山岡さんを説得するより、何十倍もましだな……。この提案書を読んで納得しなかったら、はっきり言って、その人は経営なんかに携わらない方が良いかもしれない」
経営の素人である近藤が、臆面もなくそう思った。
水曜日。中野が全身黒のスーツでコアシステムにやってきた。
山岡は近藤に、社長室で応対すると伝えていた。
「中野さん、今日はよろしくお願いいたします」
近藤は一礼した。
「代表の山岡が社長室でお待ち申し上げております」
中野は一瞬、近藤の言葉の意味が上手く飲み込めなかった。
このフロア面積で「社長室」……?
それ、必要あるの? うん?
「こちらです」
近藤に通されて向かった先のドアには、「公安9課」と書かれたプレートが貼ってあった。
中野は身構えた。百戦錬磨を自負する中野といえども、これは危険だ! と本能が察知したのだ。
『攻殻機動隊』で攻めてきたか……!
中野は極めて冷静を装い、シャツの襟を正した。
「どうぞ」
中に通されて目にしたものは、中野の常識を遙かに超えるものだった。
今回話進んだの? という疑問はさておき、やや誇張はあるものの、この物語はかなりの「あるある」がベースになっています。
悩める社会人の、「色々あるけど、それでも何とかしなくちゃ行けないんだ!」を応援するべく、これからも行動哲学のヒントをお届けして参ります。
さて、今回の「実は重要なポイント」を解説したいと思います。
それは、近藤はコンサルタントの中野と一度話をしただけで、プロジェクトの現状把握や今後の大まかな方向性など、ひとり思案していても少しもまとめられなかった重要事項をあっさりと整理することができたということです。
実はこれはとんでもない無償サービスを運良く受けられたとも言えます。
まだ正式に発注をしていないのにもかかわらず、近藤が今後検討を進める上での有用な情報が得られたのですから。
本当に賢い人や、ずるい人は専門家に発注をちらつかせて意見を請います。
その上で自分の考えを整理したり、見直したりして勝手に結論を出すのです。
もちろん相談相手に発注せずに何とかする、あるいは中断するという類いの。
この悪しき風習と、そもそもの案件内容の高度化・複雑化もあってか、近年、提供者側のいわゆる提案コストばかりが嵩むことになりました。
早く、安く、自分たちの手間暇なしに成果を出したいという依頼は愚かです。
そのような付き合い方では、まともな提案を受けられるはずもありません。
良い提案を受けたい時は、まず自らの方が真剣に、真摯に取り組む姿勢で、相手の気持ちごと盛り上げて行けるような、想いを語れるだけで十分です。
それをしっかりと受け止めてくれる相手を選びましょう。
中野は間違いなく近藤の想いに応えたいという気持ちで動いています。
だからこそ、早速彼を助け、その先にいる代表の山岡の説得を見据えて、手際の良い準備を終わらせました。
次回ついに中野と山岡が対面します。今後の展開が楽しみですね。
この記事に関するコメント