著者の住吉氏は、旅の目的地だけではなく、行き帰りの道中にさえもドラマを生み出す目線の持ち主だ。まるで、空港に向かう時点からカメラを回しておいて、その映像を、住吉氏の辛口副音声付きで見せてもらっているような気分で読ませてもらった。それほど、情景や心境が伝わる言葉の力を感じた。
私自身、朝ドラの「マッサン」にハマって、北海道余市のウイスキー蒸留所へ足を運んだことがある。ウイスキー自体の知識は全くないが、ドラマの中で「ウイスキーの味の決め手は、美しい水が流れる環境にある」という話を聞き、どんな場所で作られるのか、この目で見てみたい、と思ったことが余市を訪れたきっかけだった。

季節は冬で、雪が積もっていた。余市の駅に着くと、冷たい風が鼻の奥をツンと突くように入ってきて、鋭い痛みを感じた。北国の雪の匂いだ。同じ雪国で新潟出身の私は、雪が積もれば積もるほどテンションが上がる。そして“雪の匂い”に敏感だ。ここは、私の好きな場所に違いない。ますます興味が湧いた。
幸か不幸か、実は私も著者の住吉氏と同じく、旅のハプニングさえもネタにしてしまうタイプだ。旅で起きたトラブルをスルーするか、立ち向かうかによって、ドラマのオチが変わってくる。住吉氏は完全に立ち向かっていくタイプのようだが、私は「この世で起こることは起こるべくして起こる」と考えるタイプで、流れるままに身を任せてしまうことが多い。この余市の旅でも、日中の予定が押してしまい、蒸留所に着く頃には外は真っ暗。蒸留所の閉館まで残り1時間を切っていたので、雪道をものともせずに駆け抜け、急ぎ足で見学コースを周り、ぐいぐいとテイスティングを済ませた。

行きはずんずんと駆け抜けた道を、帰りはほろ酔いで戻った記憶がある。閉館時間が迫っていたのでおとなしくその場を後にしたが、これが住吉氏だったらどうしていただろうか。せっかく遠路はるばる来たのだから、あと10分時間をくれ、と食い下がる度胸を持っていそうだ。
この本を読んで、ウイスキーを初めて飲んだ時の味がよみがえった。飲んだ、というより、舐めてみたというほうが近い。釣り鐘型のグラスに注がれたウイスキーと、たっぷりのチェイサーを用意して、いざ試飲。すると舌の先から、波紋のように、一層、二層、三層と、何段階にも分かれて香りが広がっていった。これがウイスキーか!と衝撃を受けた。住吉氏も「口を付けてみると、香りが口内でぐわんと! と広がりました」と表現されていたが、まさに私も同じ感覚を味わった。
さらに、読み進める中で驚いたのが、著者の英語力。行きの飛行機の到着時、荷物を紛失してしまったり、旅先で借りたレンタカーが車検切れだったり、なんとも不運な「巻き込まれ型」の主人公なのだが、海外でも負けじと自分の主張を突き通す度胸は、読んでいて痛快だった。もし自分も海外に行ってトラブルに巻き込まれたら、こう返してやろうか、と思わせてくれる予習になった。