カメラ片手にブラ俳句 第2回「即興で10句ひねり出す」

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芸術

2020/12/31

カメラ片手にブラ俳句 第2回「即興で10句ひねり出す」

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渋谷の街を、くまなく歩く。それが習慣づいてきた頃、毎日通る道に、価値を見出すようになった。
「今見た光景を、一年先も美しいと思えるだろうか?」
それができたら来年はちゃんと写真を撮ろう。
そう感じたことが、カメラを持ち始めたきっかけだった。

カメラ教室にも通ってみたが、正直、数字の話が多くてあまりついていけなかった。それでも、どうしてもスマホのカメラではなく、ミラーレス一眼で撮ってみたかった。
普段の仕事であれば、「得意な作業」もあれば、「苦手な作業」もある。
でも、カメラは完全に趣味なので「得意な作業」しか選ばない。
つまり、レンズを通して自分の「好き」と「嫌い」を瞬時に仕分けられるのかが試される。「好き」の感覚をブレずに保ち続けることができるか。カメラで撮影するのを決意したのは、自分の目利きを確かめる指針にもなると思ったからだ。

そこで今年の夏は、「去年キレイだと感じた光景に、もう一度会いに行く」を実践してみた。舞台は、葛飾区の水元公園。ここには思い出がある。
令和元年において、自分史上もっとも頭をひねった日。
そう断言できるのが、この年の6月1日、2日の出来事だった。

日本伝統俳句協会 原宿支部の伝統行事「吟行(ぎんこう)」。
ひとことで言えば、「俳句合宿」。参加者が同じ場所に集まり、午前、午後に分けて即興で10句ずつ投句する。それも、事前に考えてくるのはNG。必ず、その日集まって、その日感じたことを、即興で俳句にするのだ。

その会場が、東京・葛飾区の水元公園だった。23区内でも最大規模の面積を誇る水郷公園。園内はとにかく広く、子連れの家族がピクニックしていたり、犬を散歩させている人がいたり、家に居場所のなさそうな親父たちが仲良く肩を並べて釣りに勤しんでいたり…。ここは葛飾区民の憩いの場だ。

去年、この公園内の茶室を貸し切って、句会の十数人が参加し合宿を行った。
もちろん、私が最年少。周りは俳句歴10年以上のベテラン勢だ。
朝の点呼から始まり、各々公園内に出かけて行き、そこからくまなく歩く。即興で10句はかなりきつかった。でも、普段テレビの仕事をしている私にとって、ネタを「出せない」は「ありえない」のだ。なんとしても、ひねり出さなければならなかった。

その時期、見ごろを迎えていた「菖蒲」を季語に使おうと決めた。
ちなみに「しょうぶ」は、声に出してみると3音拍だが、「はなしょうぶ」と「花」をつけることで5音拍になる。すると俳句でも使いやすくなる、と句会の先生にアドバイスをいただいた。
薄く水を張った菖蒲田。まるで鏡のように反射して、水面に空が映っていた。それはまるで、空の中に菖蒲が咲いているような光景だった。炎天下の中、日傘を指しながら私がひねり出した句の一つ。

“水面にも水の中にも花菖蒲”

水元公園のバードウォッチングエリアは、鬱蒼と草が生い茂っていた。句会の先生が、あの草は「蒲(がま)の葉」だと教えてくださった。太い茎に、鋭い葉をたくわえた蒲の葉。こんな草むらの中を人間が大腕振って歩いたらスパスパと肌を切ってしまうだろうな、と想像が湧いた。

私が小学生の頃は、田舎にはまだ「昭和の風景」があふれていて、夏に半そでで草むらの中を歩くと、鋭い葉の縁で腕をすっと切ってしまったり、ふと握った茎が、ものすごく鋭くて指に傷を作ってしまったり。それはそれで、あぜ道を歩けばけがをするということを学んだ。そうやって、子どもは夏を知っていった。

“蒲の葉で切る指先も夏の味”

あれから一年、今年は俳句界にも変化が起きた。
自粛期間に作った句には、令和2年の春を表す、新たな季語と言っても過言ではない「コロナ」「テレワーク」「マスク」といった言葉が並んだ。

シニアの方も集まる原宿句会は休会。当然、毎年恒例の「俳句合宿」も中止となった。しかし、気になる。去年一年で最も頭をフル回転させた激動の2日間。炎天下の暑さか、知恵熱か、体中のアドレナリンが湧く中でひねり出した20句。

私の「俳句脳」を鍛えてくれた、あの水元公園はどうしているだろうか。
ということで、自粛中のリフレッシュ&撮影&吟行を兼ねて、はるばる水元公園まで行ってきた。偶然にも、去年訪れた時期とぴったり重なる。
ちなみに、私が俳句を考えるときに欠かせないアイテムは次の3つ。

まずは服装。吟行(俳句を詠みながら歩くこと)の時は、動きやすい服装が望ましい。というのも、ただまっすぐに歩くだけでなく、ある時は昆虫の目線になって地面すれすれまでしゃがんでみたり、ある時は鳥に近づこうと茂みに踏み込んでいったり。俳句には、こうした冒険心が欠かせない。だから長時間歩くことはもちろん、どんな場所でも踏み込めるよう、足首をやわらかく使える履きなれたスニーカーがお勧めだ。しゃがんだり、かがんだりするので、丈の長い上着やスカートだと地面に着いてしまうのでご注意を。

もう一つ、よく持ち歩くのが雨傘/日傘兼用の傘。雨が降っても、吟行はやめない。それはそれで雨の句になるからだ。夏は炎天下の中も歩き回るので、日傘としても欠かせない。

そして、句帳。吟行しながら頭に浮かんだ句をメモしていく。この時、事前に予習した季語を付箋に書いて句帳に貼り付けておくと、いちいち季語を調べなくて済むので便利だ。
中には、スマホや携帯電話にメモしていくタイプの人もいる。こちらもいいと思うが、これだと横文字になってしまう。私の場合は、縦書きで考えたいので、アナログな句帳を愛用している。

去年、蒲の葉の句が浮かんだバードウォッチングエリア。懐かしい光景。そういえば、蒲の葉ともう一つ、先生に教わった名前があることを思い出した。あの時、私たちの会話を遮るように、せわしく鳴いている鳥がいた。「葭切(よしきり)」だ。鬱蒼と茂った木々の中で、葉のこすれあう音に負けじと精一杯鳴いていた。その姿は私には見えなかったが、先生には見えていたようだ。

一年ぶりに葭切の鳴き声を聞いて、去年の思い出がよみがえった。先生や原宿句会の諸先輩方の顔が浮かんだ。今年は私ひとりで水元公園をめぐる羽目になったことが、少し寂しいと感じた。

“葭切の声やありし日の吟行”

去年も暑かったが、今年も猛烈に暑かった。歩いては撮って、撮っては歩き、空腹も限界、スマホの充電も残りわずか…足が棒になりそうだったので、そろそろ帰途に就こう、と思った時だった。

夏木立の中、案内看板に足を引っかけて、勢いをつけながら今か今かと飛ぼうとしているカラスに出会った。よく見ると、体が小さくて丸っこい。どうやら、子どものカラスのようだ。そのカラスが、右・左と交互に視線を配った後、翼を広げて飛び去って行った。

これも、俳句になるかもしれない。その場でひねり出す集中力は残っていなかったので、最後の力を振り絞ってシャッターだけ切り、写真と句の題材を持ち帰ることにした。
その夜、写真の整理をしながらカラスの句を推敲してみた。
最初は「右を見て左見て飛ぶ烏の子」と詠んでみた。これではあまりにも普通だし、私が何に心動かされたのかが伝わらない。次に書いたのは「右左確かめて飛ぶ烏の子」これだと、少し硬い気がする。もっと、子ガラスがひとり立ちするという印象を表現したい。
3つ目に書いた句で、自分を納得させた。

“右左見て飛び立ちて烏の子”

行き交う人には目もくれず、自分が飛ぶことだけで頭が精一杯といった様子だった。まずは右を見て、それから左を見て、私の目の前をすーっと飛び去って行ったのだ。まるで小学生が横断歩道で安全確認をするような姿が印象に残っている。

炎天下の中、歩いた水元公園は一年経ってもやはり美しかった。
来年も、同じように美しいと思えるかが、試される。

本間 恵理

ほんま えり

1988年生まれ 新潟県出身。東放学園専門学校卒業。学生時代にラジオの放送作家としてデビュー。テレビ番組の構成作家の事務所に勤めた後、独立。2020年7月、女性だけのリサーチユニット「ソラハナ」を発足。「東京ガールズコレクション」のようなティーン向けから、「演歌・歌謡曲」といったシニア向けまで、両極端なターゲットの番組にかかわるテレビマン。今回は、ライティングの仕事に初挑戦しました。 ...

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